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〈連載版〉DAISHIJI   作者: 愛摘姫
12/14

〈十二〉 テディからの手紙

〈十二〉




 ダイシジは、それからしばらくの間、家にこもるようになった。




 そんな様子をみて、街中の人が彼を心配していた。彼の様子を見ようにも、どんな言葉をかけていいかわからず、戸口の前にりんごや、梨を置いていく人もいれば、だまって帰る人もいた。




 彼は、家にこもりながら、悲しみの中だけにいたわけではなかった。眠っているリディの、枕元においた戸棚が気になっていた。この戸棚は、リディにとってなんだったんだろうか。




 そっと、戸棚に触れてみた。


 何も変わらない、俺のつくったものだ。




 けれど、その扉をあけたときのことである。




 中からまばゆい光がほとばしったかと思うと、真ん中にちょこんと何かがすわっているのが見えた。




あ!!




リディ!




 小さなリディが、中に座りながら、こちらに微笑んでいる。ダイシジは、扉にしがみつき、リディ!と叫んだ。




 彼女は、笑いながら、ダイシジをみて、




「あなた、わたしを見て、妖精になったのよ。小さな戸棚に入ってしまうくらいに小さな精霊になれたんだわ」


といった。ダイシジは、




「あんまり嬉しくないよ、おれはお前に戻ってきてほしい」


そういうと、精霊のリディは、笑った。




「あなた、わたしがこんな姿になっちゃったから、驚いてるんでしょう。


この戸棚が、魔法の戸棚じゃなかったって、思ってるんでしょう。どうしてわたしを救ってくれなかったのかって。けれど、大事なことを忘れているわ。




 生も死も一対で、すべて同じだってことなのよ。あなたたちの目からみれば、どっちがいいかと思うでしょうけど、わたしたち精霊の世界では同じことなのよ。」




ダイシジは、不満そうにいった。




「けれど、おれたちの世界では、もう死んだものには、会えない。みんなそれを悲しんでいるんだ。おれだって、お前に会えないことがどれだけ苦しいか。」




 そういうと、リディは、真剣な顔をして




「あなた、あたしのことが見えるでしょう。そしたら、この戸棚は精霊のための戸棚なのよ。わたしはいつでもここにやってきて、あなたと一緒にいられるわよ!」




 ダイシジは、リディの言っていることが夢ではないかと思った。




「この戸棚に精霊が入るだって?テディの親父は生き返ったのに、どうして、リディには何もしてはくれなかったんだ。おれはそのことを思うと、この戸棚は何の役にも立たないと思っている」




 ダイシジは、そのことがずっとひっかかっていた。


 テディの親父さんは息を吹き返したのに、リディはどうして?と。その思いが戸棚が何か神がかったものだということへの信頼ができないのだった。




「リディ、どうしてなんだ」




 ダイシジは、うなだれると、リディは、困ったようにいった。




「あなた、じゃあ、あの戸棚を街中に配ってみなさいな。」




「街中に?街のやつらに、配ったら、どうなるんだ」




「街の人たちの家一軒一軒に、この戸棚を置いてもらうのよ。そうしたら、何が起こるかわかるかもしれないじゃない。」




 ダイシジはいぶかった。けれど、精霊となったリディはそれを聞こうともせずに、強引に推し進めた。




「きっと何か起こるかもしれないじゃない。この戸棚のことも、いま考えてもわからないものよ」




 以前のリディとは、ちがった強さを精霊のリディに感じた。元気で生き生きしているリディだった。




「街のやつらに、なんていって、配ったらいいんだ。」




 リディは、そんなこと!とでもいうように、




「ただ手渡せばいいのよ。」


と言って、笑った。






 ダイシジは、次の日から、戸棚を大きな籠にいれて、街にでかけた。街で会う人会う人に、その戸棚のことを聞かれると、そのまま、彼は、戸棚を彼らに手渡した。もらったものは、その小さなまるで、妖精の世界にでも入ったかのような、精巧な作りに


「ほほ~」


と関心しつつ、もらうことを断る人はいなかった。




 ダイシジは、あまったものは、街のはずれから一軒一軒たずねて周り、その戸棚を置いてもらうように、配った。


 もらうことを拒むものがいなかったように、ダイシジの顔をみて安堵しないものもいなかった。


街中のみなが、ダイシジのことを気にかけていた。戸棚のことも、リディのことも、もはやこの街では、知らないものはいなかったからである。久しぶりに街に顔をだした、ダイシジのことを誰もが快く受け入れ、そして戸棚もありがたくもらってくれたのだ。そんな雰囲気に、ダイシジ自身も癒されていった。




 すべて配り終えたとき、不思議と一つだけあまった。それ以外は、すべて街に配り終えていたのだった。




 ダイシジは、リディの戸棚を開けて彼女を呼んだ。




 リディは、にこにこしながらやってきて、ダイシジのひざの上にちょこんとすわった。




「リディ、すべて配り終わったよ。


一つだけあまったものは、ここにおいておくよ。これは、おれ自身の戸棚にしようと思ってる」




 リディは、ニコニコしながらうなずいた。




 ちょうど、夕暮れ時だった。


 丘から見下ろす街並みに、オレンジ色の夕焼けが家々の屋根を紅く染め上げてゆくころだった。


風が丘の上に舞い上がり、草の香りと夕暮れの湿った夜風が窓から入ってきた。


 精霊のリディと、ダイシジは、黙って、夕暮れの街と空を眺めていた。

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