第三話
「アレス、貴方自分の身に何が起こったか覚えているかしら?」
お母様が僕の頭を撫でながら心配そうに問いかける。
僕の身に何が起こったか。
レスト様に連れていかれた先で誰かに殴られたんだ。残念ながら犯人は見ていない。
「覚えています。」
「…そう。貴方を殴った犯人はすぐに捕まったわ。動機は、貴方の"魅了"というスキルに掛かってしまい、攫おうとしたそうよ。」
お母様がそう仰いながら、苦しそうな顔をした。
自分の息子を傷つけられたとはいえ、その原因となったのは紛れもなく自分の息子のスキル。
恐らくこの事をまだ幼い僕に伝えて大丈夫だろうか、みたいな事を思っていらっしゃるんだろう。
まぁ、以前のアレーティウス・ド・オレスティアだったら、気に病んでいたかもしれないが、今の僕は前世の記憶を思い出し、そこまで弱くは無い。
「アレス、お前のそのスキルはある条件を満たした時に限り常時世界で1番強い力で発動するらしい。スキルに掛かってしまった人は傀儡になったり、この前みたいにお前を自分の物にしようと攫おうとする。だから、ベネディクト王に頼んでスキル全てを封じる腕輪を作って貰った。ほら、右手にはまっているだろう?」
お父様の言う通り僕の右手にはシンプルな装飾の魔法石を使った腕輪がはまっていた。
魔法石は色によってその強さが変わる。
黒に近い色が弱く、白に近づくにつれて強くなっていく。この腕輪は白だから最も強い腕輪ということになる。白の魔法石なんて、国宝にと言っても過言では無い。何故そんな物が僕の右手に?
と思っていると、
「それは、ベネディクト王が自ら作ってくださったんだ。お前のそのスキルはその気になったらこの国を操ることが出来るだろう。お前はそんな事をする子ではないが、この世には人を傀儡にする術など幾らでもある。だから人に知られる前にお前のスキルを封じるのだ。しかしその腕輪は強すぎて、魅了のスキルだけではなく他のスキルも全て封じている。故に不便なこともあるだろうし、スキルが使えないということで要らんことを言う奴もいるだろう。だが、そのスキルの事だけは誰にも打ち明けてはならん。知っているのは私とサナ、ベネディクト王と王妃様だけだ。」
お父様が僕に諭すように言う。確かにお父様の話が本当ならこの魅了というスキルはとても厄介なスキルだ。そして、誰にも知られない方がいいということも分かる。知られたら利用される可能性が跳ね上がるから。しかしこの国で、貴族は殆どの人がスキルを持っている。種類や威力は数あれど、必ず1つは持っているものだ。最高3つだ。
お父様も、お母様も持っている。僕も持っていた。それなのに持っていないと言う事になると、どう考えても厄介な事になるという道しか見えない。いずれ入学する事になる、王国立上級学校という貴族の子息子女全てが入学する学校で、絡まれ、蔑まれる事間違いなしだ。
しかも僕は生憎とこの国の貴族の中で1番位が高く1番勢力のある公爵家の嫡男だ。この先の事を考えると、溜息しか出ない。
だか、危険な目に会うくらいならそれくらい我慢しよう。僕にはしたいことがあるし、邪険にされるくらいがもしかしたら丁度良いのかもしれない。
「分かりましたお父様。僕の為にありがとうございます。」
僕はお父様とお母様に頭を下げた。