第一話
俺は、小さい頃から肌が弱かった。
その為小学校の頃から肌荒れ、主にニキビと長い付き合いをしてきた。
そのせいで俺は自分に自信が持てず、教室の端っこで、大人しく本を読んでいる類の人間だった。
生憎と俺の両親は顔が整っており、それをしっかりと受け継いだ俺は、顔が整っていた。
なので皆から二言目には
「ニキビさえなかったらね〜」
だった。
好きな人に告白しても、友人も、友人から紹介して貰った人にも、知らない人にも、親にさえも。
悲しかった。どうして俺は肌が弱いのだろう。
どれだけ対策をしても一向に治る兆しが見えなかった。
勿論皮膚科にも行った。
しかし、肌の刺激が強い薬しか貰えず、余計肌が荒れる結果となってしまった。
俺はどうしたら良かったのだろうか。
そんな事を考えながら、ニキビには悪いマスクをしてはいけないと分かりつつマスクをして、学校に通う日々。
憂鬱とした日々に突然、終止符が、打たれた。
俺は通学中、居眠り運転のトラックに轢かれたのだった。
体に強い衝撃が走る。
急速に血の気が引いて行く感覚を感じながら、俺の意識は深く、深く、沈んで行った。
「…ス……レス………アレス!!!」
呼ばれている。俺の名前じゃない。
…あれ?
本当にそうだっけ?俺は、俺の名前は?
アレス…
そうだ!思い出した。
俺はアレーティウス・ド・オレスティア。
オレスティア公爵家の長男だ。
確か、そう。俺は王城に連れていかれたんだ。そこで王太子であるレストニア・フォール・エディアルドの話し相手として合わせられていたんだ。
初めて目上の方に会う。失礼な事をして不興を買ったりしたら尊敬する両親の顔に泥を塗ることになる。そう思い、とても緊張していたが、運良く気に入って貰え、ほっとしていた所、レスト様に手を引かれて庭園の方に連れていかれた。
しばらく、レスト様と俺の護衛と侍女に見守られながら遊んでいると、
「ねぇ、アレス。僕のとっておきの秘密の場所があるんだ!連れて行って上げる!!」
そう言いながらレスト様は俺の手首を握って走っていく。その勢いは凄まじく鍛えているはずの護衛を撒く程だった。
丁度息が少し乱れてきた頃、目の前に植物で出来た塀が現れた。そしてそこには子供が辛うじて通れるだろうかというような穴があった。
レスト様はそこを躊躇することなくするりと抜けていく。そして穴の向こう側から僕を呼ぶ。
「ほら、アレス!おいで」
僕も、レスト様を見習ってするりと抜けていく。
抜けた先には大して大きくないが、透き通った湖があり、その傍に寄り添うように聳え立つ春先になると綺麗な紫色の花を付ける木があった。
湖には羽根を休める鳥がおり、湖の周辺には色とりどりの花が咲き乱れていた。
僕は息を飲んでその神秘的な光景に見入っていた。
だからこそ俺は気づかなかった。
俺が魔の手にかかろうとしていたなんて。
突如、頭に強い衝撃が襲いかかった。
俺は前のめりになって、倒れた。
辛うじて意識を失うのを避けることが出来たが、体が動かない。必死に目を動かして状況を把握しようとすると、何か棒のようなものを持った男がまた、俺に向かって棒を振り下ろそうとしているのが見えた。
レスト様は、あまりに突然すぎた出来事に固まっている。そして視界の端で俺の護衛が駆けて来るのが見えた。
そしてそこで俺の意識は無くなったんだ。
「アレス!!!」
一際大きい声が俺の名前を呼ぶ。
目を開けると、両親の顔が見えた。
心配そうに顔を歪ませた見目麗しい母に、こちらもまた心配そうに顔を歪ませた見目麗しい父。
「医者!医者を呼べ!!アレスが目を覚ました!!」
「あぁ。アレス良かったわ!!目を覚ましたのね!!!」
バタバタと騒がしくなる俺の周り。
取り敢えず今分かる事は、俺は2度目の人生を歩むことになった事と、襲われて、気絶して、今目を覚まし、両親に多大なる心配をかけたのだろうという事だった。