8話「EVアーマー」
「ふふっ。どうした、止めを刺さないのか?」
オメガが仰向けで倒れながら言う。
「必要ない、あんたは俺の味方だから。だろ?大牟田さん。」
オメガはアーマーを解除し正体を明かす。
「気づいてたのか。でもどうして?」
まず止めを刺せたはずなのにそのまま立ち去ったこと。博士のサポートを知っていたこと。俺の心を博士並みに理解していたこと。何より俺を育てるような戦い。加えて諸々の状況証拠から大牟田さんしかいないと断定した。
「って、博士が言ってました!」
なんだそりゃ、と笑い出す。
「でも、これで安心して話せるな。俺の体のこと。」
大牟田さんの体?そういえば自分のことをEVアーマーと言っていた。
「今の俺の体は、EVが動かしてるんだ。死んだ後にどういうわけか感染しちまってな。」
大牟田さんがEVに…?いや、でもEVは機械にしか感染しないはずじゃ?
「だからな、敦彦。もし俺が廃鬼みたいになっちまったら、お前が止めてくれな。」
分からないことだらけだ。でも、
「任せてください。もう絶対迷いません。」
言うと大牟田さんは満足げに笑った。
「合格だ。」
「うーん、うーん…」
蜜絵さんが何やら呻きながらうろうろしている。「どうしたの」と尋ねると、昨日兄の部屋で話したことを教えてくれた。
「無責任なこと言ったかなって。もしもだよ。もしもこのまま廃鬼に人類が滅ぼされちゃったら、私の責任だよぉ。だってだって、すごく辛そうだったんだもん!」
そうはならないと思うけど…。彼女の言葉はきっと兄の心に響いたはずだ。兄ならきっと大丈夫と思うが、懊悩している蜜絵さんが面白いのでそのままにしておく。
「ああ、人類が滅んじゃう!私のせいだぁ~」
だから大袈裟だって…
「大丈夫だって!俺が守るから。」
そうそう、大丈夫…ってお兄ちゃんいつの間に帰ってきてたの?大牟田さんも連れてきたようだ。とりあえず、おかえり、と声をかける。ただいまと答える兄の顔はとても晴れやかだった。「俺、大牟田さんとラボ行ってくるから」といって立ち去っていく。
「荷田君大丈夫そうだった?いつも通りだった?」
蜜絵さんが情けない顔で聞いてくる。あんまり面白いので堪えていた笑いが漏れ出てしまう。
「ちょっと、イオちゃん!今笑ったよね!?私本気で心配してるんだよ!」
今度は怒り始める。大丈夫だよ。いつも通り、っていうか、いつも以上だったから。
交野くんに呼び出されラボに向かう。この間のサンダー・アーマーの話らしいがそれなら何で流も呼ばないのかしら。ラボに入ると交野くんと、敦彦くん、それに大牟田くんが待っていた。
「3人そろって何の用?あ、ひょっとして三人同時告白ってやつ?」
冗談を言うが華麗にスルーされ交野くんが話し始める。ちょっとぐらい乗ってくれてもいいのに。
「本来皆に話すべきことなんだが、イオちゃんや蜜絵さんに言うわけにはいかないし、流君は取り乱してしまう可能性があるしね。…モニターに映っていたサンダー・アーマーは幸平だった。そして…」
そう言うと口をつぐんでしまった。その情報だけで十分だと思うけど、まだ何かあるの?俺が直接言おう、と大牟田くんが話を引き継ぐ。
「実はね、俺はEVなんだ。大牟田幸平の亡骸をEVが操っている、という状態なんだが、どういうわけか今は俺の、大牟田幸平の自我が保てている。」
衝撃の真実!ちょっとビックリ。そりゃ流たちには聞かせらんないわ。それにしても、EVって人間にもなれるのね。
「EVは機械にしか感染しないはずでは?どういう原理なんだ?」
交野くんが尋ねる。敦彦君も「俺も気になってた!」って顔をしている。
「EVは宿主に逆電流を流すだけじゃなくて、宿主に流れる電流を自由に操れる。つまり頭から…神経?に送られる電気信号を操作して…って寸法さ。機械にしか感染しないってのは…まあ、多分なんかの勘違いだろ。」
なるほどね。敦彦くんはよく分からないって顔してるわね。でも神経系の電気信号に干渉って、それじゃあまるで…
「まるでサンダー・アーマーじゃないか。」
交野くんが口を開く。サンダー・アーマー・システムは外部から特殊な回路で高圧電流を流すことで神経系の電気伝達に干渉し装着者の身体能力を向上させる。EVの場合は内部からだけど原理的にはよく似ている。
「幸平、もう一つ聞かせてくれ。EVアーマーとは何だ。」
いったん情報整理したいんだけど。もう、せっかちなんだから。
「EVアーマーは、EVの本来の姿だ。普段は幽霊みたいな実体のない存在だが存在を、こう、ぐっと濃縮することでEVアーマーっていう実体を持つことができる。」
交野くんが続けて質問する。
「なるほど、ではどうして人間や機械に感染する必要がある?EVアーマーと言う”肉体”があるならそんなことしなくてもいいだろ?」
確かにそうだ。大牟田くんがええと、と首をひねりながら答える。
「理由が二つあって…まずEVアーマーになるには電力を使うんだ。知っての通りEVは電気エネルギーがなくなる=死、だからな。それと、幽霊の状態だと自由に移動できない。適した、ええと磁場の場所にしか移動できないんだ。」
交野くんが一言「そうか」とつぶやく。敦彦くんも一言「分からん」とつぶやく。おおむね納得はいったけど一つだけ確かめなければいけないことがある。
「大体わかったわ。でもいつ大牟田くんの自我が薄れるかわからないでしょ?その場合はどうするの?」
答えようとする大牟田くんを遮り敦彦君が答える。
「そうなったら俺が絶対に止めます。」
良い顔になったじゃん。もう心配ないみたいね。
「そ、じゃあ大丈夫ね。」
ようやく一通りの説明が終わった。久々に頭を使ったのでくたびれた。ラボのアラートが鳴る。廃鬼か。敦彦がさっそく電池をつかんでラボを飛び出す。しかしすぐに引き返してくる。忘れ物か?
「大牟田さん!何やってんですか!行きますよ!」
俺もか?嬉しいこと言ってくれるじゃん。
「よっしゃ!行くか、レボルト!」
現場に向かうと手足の生えた3ⅿ近いテレビが町を破壊している。しかしこう、改めてみると廃鬼ってシュールな見た目してるよな…
「行きましょう!」
ああ、と答え存在を圧縮する。仲間と一緒に戦える日が来るなんて、思ってもみなかったな。
Thunder armor set up!.
Type_Revolt!mode:spark!
「オメガさん、例の鞭であいつの動き止めること、できますか?」
「オメガでいい!あとこれ!”荊の鞭”だ!」
「了解っす!」
荊の鞭で廃鬼を縛り上げ自由を奪う。敦彦がソード・コンダクターで切り付け電流を流し込む。しかし全く効いていない。バカな、こいつは一体?
「!そうか」
敦彦が何かに気づく。いやおそらく直也の指示か。
「その鞭で縛っているから電流が流れにくくなっているんです!」
そういうことか!
「くっ、しまった!小賢しい奴め!」
だが舐めてもらっては困る。荊の鞭の特性はそれだけじゃない。荊と呼ばれる理由を見せてやるぜ。収納していた棘を展開する。
「敦彦、その棘は電気を通す!そこに撃て!」
「OK、オメガ!行くぜぇ!」
Voltage max!! 1000000000V!!
「ビリオンボルトスラッッッッシュ!!」
廃鬼が崩れ落ちる。やったな。敦彦が近づいてきてこちらに拳を突き出してくる。なんだ?やんのか?ああ、そういうことか。こちらも拳を出し突き合わせる。
やっぱり仲間っていいもんだな。
8話・完