7話「戦う理由」
戦う理由……覚悟……資格……オメガに言われた言葉が何度も脳内をぐるぐる回る。最初はみんなを守るためにレボルトになったんだと思っていた。でも思い返してみればあいつの言う通り自分の心を守るためにヒーローのふりをしていたのかもしれない。実際、初めてレボルトになった時、俺の体は震えていた。やめてしまえたらどんなに楽だろう。でも途中で投げ出すわけにはいかない……
「敦彦、イオを連れて逃げなさい!」
「お母さんたちも必ず追いつくから!」
「でも……無茶だよ、そんなの……」
「いいから行け!お前たちが生きていてくれればそれでいいんだ」
「……わかったよ。イオ!行くぞ!」
「なんで……お兄ちゃん?」
「わかんないのかよ!行くぞ!」
俺はただ逃げるだけだった。俺に力があれば助けられた。レボルトになった時、なんだってできると思ってた。でもあのEVアーマーって奴に全然歯が立たなかった。
今の俺に、何ができるっていうんだろう。
考えているうちに家に着いてしまった。蜜絵さんが「おかえりー」と迎えてくれる。無理して明るく「ただいま」と答える。お味噌のいい香りが漂ってくる。夕食作ってくれてるのか、正直食べる気になれないんだけど、心配させたくない。
「お腹減ったー! いやー、今日もおいしそうだねー!」
と心にもないことを言う。蜜絵さんが「そうかな」と嬉しそうに微笑むのでちょっと申し訳ない気持ちになった。手を洗ってすぐラボに向かう。博士から帰ったらすぐ来いと言われていたのだ。
「気にしなくていいからね。君は立派にやってくれている。本当に感謝しているんだ」
そう言って慰めてくれる。気休めでないのは伝わってくるが、やはり気にしないわけにはいかない。
「大丈夫です。気にしてませんから」
また嘘をついてしまった。
無理に夕飯を胃袋に詰め込んでさっさと部屋に戻る。あんまり長いこと顔を合わせてるとボロを出してしまう。これは俺の問題だ。俺が一人で解決しないと意味がない……と思う。でもいくら考えても何回も同じ所をぐるぐるするだけでやっぱり答えは出ない。考えていると誰かが部屋のドアを叩く。
「荷田くーん、起きてる?」
蜜絵さんの声だ。焦って「寝てるよ」と答えてしまう。「なんだ起きてるじゃん」といいながら部屋に入ってくる。どうしよう、まずいことになった。
「今日元気なかったから、何かあったのかなって」
お見通しか。また「なんでもないよ」と誤魔化す。しかし彼女は納得してくれない。
「あのー、蜜絵さん?」
恐る恐る尋ねる。
「絶対、嘘。何あったか教えてくれるまで出ていかないから」
どうしたものか。30分ほど沈黙が続く。本当に出てかないつもりか。そこからさらに1時間が経過したところでとうとう根負けして、何があったか、何を考えているか全部吐き出してしまう。
「じゃあ戦わなくていいんじゃない?」
蜜絵さんの反応は意外なものだった。それにしても戦わなくていいとは一体……?
「レボルトじゃなくても、荷田君は荷田君でしょ? 博士も、杏さんも、流さんも、もちろんイオちゃんも、みんなきっとそう思ってるよ。それに、私がこんなこと言っていいのか分かんないけど、みんなもう、家族じゃん」
家族……。そう言われて、父さんと母さんのことを思い出す。あの時父さんと母さんは……。
「それにそれに! もし自分のためだったとしても、私は荷田君に命を救ってもらったよ。だから、たとえどんな道を選んでも、荷田君は私のヒーローだよ。それは絶対変わらない」
言い切ると蜜絵さんは微笑んだ。そうだ、あの時父さんと母さんは笑顔だったんだ。二度とあの笑顔を見捨てないためにレボルトになったんだ。たとえ偽物のヒーローでも、この笑顔を守るためなら――――
「ありがと、蜜絵さん」
「力になれたかなあ」と頭をかいている。十分すぎるよ。今度は俺が救われちゃったな。
◇◇◇
「待ってたよ、オメガ」
ここにいれば会えるような気がした。瓦礫の上から声をかける。
「答えは出たのか」
オメガが問いかける。レボルトになり、瓦礫から飛び降りる。
「試してみろよ」
俺とオメガの拳が衝突する。オメガがにやりと笑う。
「いいじゃん、いったい何があった?」
ソード・コンダクターを取り出し切りつける。
「分かったんだよ、戦う資格なんかどうでもいいってな! 理由と覚悟、それだけで十分!」
オメガが右腕で受け止める。
「ほう、なら教えてもらおうか! その理由と覚悟とは何だ!」
受け止められたがそのまま押し込む。
「守りたいんだよ! 大切な人の笑顔を! そのためなら、偽物でも何でも構わない!」
オメガが力負けし地面に叩きつけられる。
「ぐはっ……開き直りか! いいじゃん、いいじゃん!」
オメガが鞭を取り出す。
「さあ、ぶつけてこい! お前のその“開き直り”を!」
俺も出力を最大まで上げる。そのときアーマーとコンダクターが形状を変える。
Revolt,mode:Spark!
Voltage max!!1000000000V!!
「行くぞ、オメガぁあああ!! ビリオンボルトスパァアアアアアアアアアーク!!」
ソード・コンダクターから放たれた無数の火花は、オメガが鞭を自在に操り張った網をすり抜ける。
「ふふふ、最高だなぁ! お前なら、きっと――――」
7話・完
レボルトが形状変化した理由について:サンダー・アーマーは装着者の脳から発せられる電気信号を敏感に読み取っているので、使用者の感情の変化などによってこのようなことが起こることがあります。
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