6話「オメガ」
「てやーっ!」
気の抜けそうな叫び声とともにソード・コンダクターを振り回すが空しく空を切る。敦彦君が廃鬼と交戦しているがどうも精彩を欠いているようだ。
そういえば幸平が来た日から少し様子がおかしかった気がする。あいつが何か余計なことを言ったのだろうか。とにかく、あんな雑な戦い方をされていては電池が何本あっても足りない。
「レボルト、聞こえるかい。敵の動きをしっかり見るんだ。いつも通りに戦えば大丈夫だ」
一応指示を聞く耳はあるようだが、いつも通りと聞いて余計に混乱しているようだ。どうしたものかと考えていると幸平が入ってきて「レボルトの調子はどうだい?」と尋ねてきた。
「見ての通り、絶不調だよ。お前、敦彦君に何か言ったか?」
モニターを見て「こりゃひどい」ともらす。そして、
「いや、俺はただ、『頼むぞ、レボルト』って」
それだ。やっぱり言ってやがった、余計なこと。
「あー、レボルト。いや、敦彦君。幸平に言われたことはいったん忘れたまえ。彼もああは言ったがやられたときの後遺症が深刻でね。それが回復すれば戦いに復帰するつもりなんだ」
幸平が「お前、何勝手なこと!」というが口を無理やり塞ぐ。敦彦君は狙い通りいつもの調子を取り戻したようだ。
「幸平。彼は君とは違うんだ。戦いへの恐怖心をそれを上回る正義感で無理やり抑え込んでいただけなんだよ。そこに君が、ボルテッカーが帰ってきた。彼はもう戦わなくていいと安心したことだろう。しかしこともあろうに君は『頼むぞ』と丸投げして突き放してしまった。そりゃあ不安にもなるよ。やっちゃったなお前、やっちゃったな」
諭すように説明すると幸平はバツが悪そうに黙り込んだ。
「すまなかった。知らなかったこととはいえ酷なこと言っちまった」
そう謝ると帰っていった。まったく、気を付けてくれよ。……そういえばあいつ、何しに来たんだ?
◇◇◇
翌日また廃鬼が出現した。二日連続とは珍しい。もう少し敦彦君を休ませてほしいのだが。主に心のほうを。しかし現状、彼に出てもらうよりほかない。幸い今回のはただのガラクタの集合体だ、すぐに片付くだろう。
ビルの壁をけって廃鬼の頭上に出る。そのまま落下しながらソード・コンダクターを廃鬼に突き刺し電流を流し込む。そうそう、そう使うんだよ。廃鬼は活動を停止し崩れ落ちる。早めに済んで良かった。
「敦彦君、お疲れさま。今日は早く帰ってゆっくり――――」
そう言いかけたときスクラップの中から何かが出てきた。煙が晴れて姿をはっきり視認できるようになると、あれは例のサンダー・アーマーじゃないか! なぜこのタイミングで僕たちの前に出てきた? 目的は一体何だ。
「レボルト……」
サンダー・アーマーが言葉を発する。意思疎通は可能なのか?
「あんた何者だ! ……味方、なのか?」
敦彦君が縋るように問いかける。そうだ、それが一番重要だ。
「答えることはできない。ただ……」
ただ……? 敦彦君とともに次の言葉を待つ。
「俺はお前を倒しに来た。俺の名は“オメガ”……誇り高き戦士の名だ。覚えておけ」
最悪だ。廃鬼の件も全く先が見えないというのにこの謎のサンダー・アーマーまで敦彦君を狙ってくるとは。頼む。これ以上彼を追い詰めないでくれ。しかしそんな願いが通じるはずもなく、サンダー・アーマー“オメガ”はレボルトに飛びかかる。
雷を纏ったオメガの拳が直撃する。パワー、スピードはレボルトと大差ないか。……おや?レボルトの出力が少し下がっている。あいつはレボルトの逆電流、つまりEVと同じ電流を使っているのか。つまり攻撃を受けるほどにレボルトの電力が相殺されていく。だがそれは相手にとっても同じこと。
「レボルト! そいつは逆電流を使うぞ!」
敦彦君も黙って親指を立てる。しゃべる余裕はなくても冷静さは失ってないようだな。
オメガの蹴りをソード・コンダクターで受け止めそのまま電流を流し込む。そのまま切りかかるが、オメガが鞭のようなものを取り出しソード・コンダクターに巻き付ける。
ソード・コンダクターの出力が急激に減少する。あの鞭は絶縁体か。レボルトを倒しに来たというだけあってサンダー・アーマーとの戦闘に特化しているようだ。
しかし敦彦君も負けていない。鞭がまかれたコンダクターと一緒にオメガを引き寄せボディに蹴りを入れる。そのときオメガが敦彦君の耳元で何かをささやく。敦彦君は一瞬固まりその隙に思いきり殴り飛ばされる。一体何を言った?音量を上げて確認する。
「お前のような弱虫が……これからの廃鬼と、俺達との戦いに耐えられると思っているのか? 果てしないぞ?」
こいつは一体何を知っている? 俺達ということはあいつのようなのが他にもいるのか? いや、それより敦彦くんだ、今の言葉で確実に心を乱されている。指示を送ろうとすると再びオメガがささやく。
「お前もお前だ。少しレボルトを甘やかしすぎじゃないか?そんなだからこいつはいつまでたっても弱いままなんじゃないのか?」
こちらの存在にまで気付いているのか? 本当に何なんだ。指示する間もなく敦彦君が突っ込んでいく。
「お前に、何が……! 何が分かるんだぁあああ!!」
よせ、一度距離をとって立て直せ。オメガはレボルトの攻撃を難なく回避しわき腹に蹴りを入れる。
「分かるさ。お前は戦いを恐れている。誰かに代わってほしいとも思っている。誰かを守りたいと言い聞かせることで目を背けているだけさ。誰も守れない自分には価値がないと思っているんだ。結局自分の心を守るためさ。お前は、正義の味方のふりをしているだけに過ぎないんだよ」
もうやめてくれ。これ以上は彼の心が壊れてしまう。
「うるっせえええええええええええええええ!!!」
Voltage max! 100000000V!
我を忘れた敦彦君は怒りに任せてコンダクターを振り下ろす。……決まったか? いや、オメガは冷静に絶縁体の鞭でレボルトの攻撃を無力化していた。
「いい目をしていると思っていたんだが。がっかりだよ。今のお前にEVを倒すのは不可能だ」
悲しそうにつぶやきレボルトを地面に叩きつける。
「最後に教えてやるよ。これはサンダー・アーマーとは違う。EVアーマーだ」
EVアーマー? それじゃあ、あいつもEVなのか? 敦彦君が這いつくばりながら悔しそうにつぶやく。
「なんで……なんでだよ……何が足りないってんだよ……」
立ち去ろうとしていたオメガは立ち止まり背を向けたまま答える。
「戦う理由も覚悟も何もかも、だよ。今のお前に、戦う資格はない」
そう言うと今度こそ立ち去っていった。敦彦君はしばらくそこに突っ伏したままだった。
6話・完
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