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Revolt  作者: ハイマン
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5話「らい客」

「やはり分からないな……」



 交野教授がモニターを見つめながらため息をつく。件のサンダー・アーマーのことだ。教授が知っているどのアーマーとも違うものらしい。もし彼が仲間なら敦彦の負担も減らせるのだが。



「交野くん、そんなじっと見つめてても埒明かないんじゃない? ちょっと休みなよ」



姉さんが二人分のお茶を持って入ってくる。めずらしいな……明日は吹雪かな。湯飲みの一つを教授に渡すともう一杯のお茶を自分で飲み始める。……俺の分は?



志波(しば)くんに預けてたのが一つあったでしょ、あれじゃないの?」



志波さんというのは姉さんや交野教授とともに、教授のお父さんに師事していた方だ。今はEVのことについて研究しているらしい。



「いや、あれは調整が不十分でまだ使えないはずだ。完成したら連絡すると言っていたし。……第一、志波にはサンダー・アーマーの適性がない」



教授がすぐに否定する。そういえば最近志波さん来てないな。その時嫌な想像が脳裏に浮かぶ。まさか何者かが志波さんからサンダー・アーマーを……



「その可能性はないよ。志波はそんなに迂闊じゃない。それに、僕と志波以外にあれを完成させるのは不可能だ」



言う前に否定される。姉さんもうなずいている。じゃあもう俺にはお手上げだ。志波さんのことは二人のほうがよく分かっている。席を立って部屋を出る。



「流、どこいくの?」



姉さんが尋ねてくるので、当てつけるように、こう答える。



「喉乾いちゃったから、なんか飲んでくる」



◇◇◇



 朝から博士と流さんが何か話し込んでるようだ。多分あの謎のサンダーアーマーのことだろう。お昼ご飯も食べてないみたい。二人のために軽食を用意していると、イオちゃんが話しかけてきた。



「ねえ、何かあったの?」



イオちゃんの誕生日パーティー以来、私ともだんだん打ち解けてきた。今ではこうして普通に話しかけてきてくれる。本当にただ人見知りだっただけみたい。例のサンダーアーマーのことを説明する。多分それじゃないかと思うけど。



「えっ、それってどんな……」



イオちゃんが言いかけると玄関のチャイムが鳴る。お客さんかしら。



「ごめん、私ちょっと見てくるからこれ持ってってあげて」



差し入れをイオちゃんに託し、玄関に向かう。ドアを開けると大柄な男性が立っていた。



「お邪魔します……えーっと直也は、交野直也はいるかな?」



博士の知り合いかな、ていうか博士の下の名前直也っていうんだ。そもそもこの人誰だろ?



「ああ、失礼。私は大牟田幸平といいます」



おおむた? どこかで聞いたことのある名前だ。あ、そうだ! あの時に……


「ボルテッカー、大牟田幸平。彼は戦いのさなかで命を落とした」


はあー、この人が例の。いやー、まさか本物にお目にかかれるなんて、



「って、えええええええええええええええ!?」



驚きのあまり腰を抜かしてしまう。何で!? 幽霊!? クローン!? テンパっているとちょうど荷田君が帰ってきた。



「あっ、荷田君、そっ、その人……ぼ、お、ぼむ……」



焦りすぎて言葉にならない。荷田君が腰を抜かしている私を見て怪訝な表情を浮かべる。目の前の幽霊が再び、



「お邪魔してます。わたくし、大牟田幸平といいます」



と名乗る。そして荷田君はしばらく考え込んだ後こう言った。



「えええええええええええええええ!?」



◇◇◇



「本当に、幸平なのか?」



 博士が重々しく口を開く。そりゃあ信じられないよ、亡くなったと思ってたんだから。イオちゃんは荷田君の後ろに隠れて思いっきり睨み付けている。杏さんはいつもの調子だが流さんは悪霊退散と叫びながら部屋に閉じこもってしまった。



「いや、本物なわけがない。きっと幽霊か何かだろう」



博士……この間心霊番組見てた荷田君に『そんなの錯覚かトリックでしょ』って水差してましたよね。博士もそれだけ焦ってるってことだろうけど。



「ねえ、二人親友だったんでしょ?なんか秘密の合言葉的なのないの?」



杏さんが軽い口調で言うが、そんなのないよ! と否定する。ここでようやく大牟田さんが口を開く。



「俺は証明できないけど……でもお前は俺の遺体を確認したわけじゃないだろう? 俺が死んでるって主張するなら、科学者らしくお前が証明したらどうだ?」



博士もすぐさま反論する。



「サンダー・アーマーと装着者は頭のてっぺんから足の先まで、すべての神経がリンクしているんだ! 装着中に機能停止していたら装着者も死んでいると考えるのが妥当だろうが!」



「え、俺その話初耳」と口を挟もうとする荷田君を杏さんが制止する。二人のやり取りは友達同士の喧嘩そのものに見えるけど……



「でもそれって可能性の話だろ? 実際にそんな実験結果が出たのか?」

「そんな実験できるかぁ! サンダー・アーマーのことは僕が一番よく知っている!」

「いやいや、直也はモニター越しにしか見てないからだよ。現場の苦労が分かってない」

「お前はどこの現場監督だ!」



こんな感じの言い争いがしばらく続き二人とも疲れ果てた所でようやく博士が「信じがたいがお前は本当に幸平みたいだ」と認め決着した。……ユウジョウッテステキダネ。



◇◇◇



 直也もようやく俺が本物だと分かってくれたようだ。あいつはどうも頑固なところがあっていけない。にしても、直也一人だったころと比べて随分賑やかになったな。ベランダでたそがれていると、誰かやってきた。彼は確か……荷田敦彦くんだっけ。



「何か用かい?」



尋ねると僕もよく知っているブレスレットを差し出してきた。サンダー・アーマーの起動装置だ。そうか、彼がレボルトか。



「これ、お返しします! ほら、本来大牟田さんが持ってるべきものだし!」



なるほど、そういう用件か。だが、今の俺の体じゃそれは使えない。



「いや、それは引き続き君が持っていてくれ。君の活躍は俺も知っている。君なら大丈夫だ。伝説のヒーロー、ボルテッカーが太鼓判を押そう!」



そういってブレスレットを握りこませる。



「頼んだぞ、レボルト」



肩にポンと手を置くと無言でうなずく。大丈夫だ。彼のこの目なら、きっと――――



◇◇◇



 ビルの陰からレボルトを見つめる人影。誰も知らないサンダー・アーマー。こいつじゃない、とつぶやく。この前私に接触してきたのとは別物のようだ。いったい彼らはサンダー・アーマーの姿なんか借りて何を企んでいるのか。


私がみんなといられる時間も長くないかもしれない。不安に沈んでいると玄関のほうで立て続けに二回、叫び声が聞こえる。はあ、とため息をつきながら玄関に向かう。


いつまで一緒かわからないなら、せめて今だけでも、この賑やかな日々を楽しもう。




5話・完


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