36話「コンパスの行き先」
また一人、友人を失ってしまった。二人とも大馬鹿野郎だ。だから最後に一人残ったバカだけは死なせるわけにはいかない。
「志波さん…一人で行くつもり?無茶よ、そんな体で…」
「荷田君が起きたら連れて来い。僕は先に行く。」
「あなたまでいなくなったら…」
随分兄思いな妹だな。だが不愉快だ。
「僕が負けると思っているのか?あまり人間をバカにしないでほしい。」
「思ってます。アダムは戦えば本当に強いの。志波さん一人じゃとても…」
「死ぬつもりはない。彼が起きるまでそばにいてやれ、家族だろ?」
そう言い残してアダムのいる部屋に向かう。一矢報いてやらないとどうしても気が済まない。
「お前がアダムか。」
「…少し話をしないか?」
「お前とする話はない、さっさと戦え。」
今更戦わない選択肢などあるはずがないだろうが。お前たちの身勝手な計画のせいでどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ。
「待ってくれ。僕は君を殺したくない。」
「多くの人間を殺しておいて何を言う!」
とことんまでふざけたやつだ、徹底的にぶちのめしてやらないと気が済まない。しかし強さは本物みたいだ、さっきからNSロッドでいくら殴っても全く手ごたえがない。
「もうやめようよ。」
アダムがこちらの肩を軽く押すと、それだけで扉の向こうまで吹っ飛ばされる。これほどまでとは、確かに僕じゃ勝てないな。瞬きをした次の瞬間アダムが目の前にいた。
「力の差、分かったでしょ?僕はもう人間にも、EVにも、死んでほしくない。」
…はっきり分かった。こいつの言葉は嘘っぱちだ、醜い本性暴いてやるよ。
「死んでほしくない?嘘言うなよ、本気でそんな風に思ってたら、人間の肉体を奪う計画など、立てなければよかった。それで誰も死ななかった、違うか?百歩譲ってそうだったとして、お前ほど強い奴なら、お前が最初から戦っていれば回りくどい計画なんか必要なかっただろ?」
「…何が言いたいの?」
「お前は、自分の手を汚したくないだけだ。」
アダムが目に見えて狼狽し始める。はっ、図星か。
「違う!僕は…僕はただ…」
「ああ、そうだ。お前はただの卑怯者だ。」
NSロッドを掴んで磁力を発生させる。少しぐらい削り取れると思うが…
「……違う。」
受け止めても無駄だ。磁力はお前の体内に発生する。
「僕は卑怯者なんかじゃない!」
体に強力な磁力がかかっているはずなのに動けるのか?こいつ強すぎる。3回指を鳴らすがそれでも磁力を振り切ってくる。
「そこまで言うなら、やってやる、卑怯者じゃないって、見せてやる。」
息切れを起こしながら言い聞かせるようにつぶやく。まずい、磁力を上げないと…次の瞬間、指を鳴らそうとした右手を思いっきり踏みつけられる。
「この…」
「違う違う違う違う違う!卑怯者なんかじゃない。殺してやる、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
そういいながら、胸骨の辺りを何度も何度も踏みつけてくる。手も足も出ないこの状況でこういうのはどうかと思うが、まるで癇癪を起こした子供だな。それで力も持っているからタチが悪い。何とか反撃を…NSロッドはどこだ…
「動くな!」
喉の辺りを踏みつぶされる。ちょっと動こうとしただけだろ…
「アダム、その辺にしてもらえるか。」
入口の方から怒気を含んだ声が聞こえてくる。まったく…相変わらず来るのが遅い。
「レボルト…イブも一緒か…」
「終わらせに来たぜ。」
悪いが僕はもう限界だ、後は頼んだ。
36話・完




