4話「誕生日」
「えっ、イオちゃんの誕生日!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、荷田君は耳をふさいでいる。
「うん、そう。蜜絵さんなら同性で年も近いからプレゼント選び手伝ってほしくて」
そういうことか、でも私で大丈夫かなあ。誕生日プレゼントなんてここ数年貰うこともあげることもなかったし……ていうかあのイオちゃんがプレセント貰ってテンション上がってる姿とか想像できない……
もうこの家に住み始めて1か月ほどになるが未だに彼女の表情は読むことができない。荷田君曰くお姉ちゃんができたみたいで喜んでるそうなのだが、イマイチぴんと来ない。博士や井田さんたちとは普通に仲良さそうだし単に人見知りなのだろうか。だったらこの機会に仲良くなれるかもしれない。
「わかった、荷田君! 私手伝うよ!」
急に大声を出したので荷田君がまた耳をふさぐ。
「おお、ありがとう」
荷田君が笑いながら肩をゆする。
「でももうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃない?」
そう言われて思わず照れ笑いを浮かべてしまった。
「えっ、イオの好きなもの?うーん、何だろう……」
参考にと思って聞いてみたが知らないようだ。お兄ちゃん、しっかりしてよ……
「去年は何あげたの?」
尋ねると気まずそうにはにかみながら頭をかいた。
「実はイオにプレゼント買ってあげたことなくてさ……バイトしてお金たまったからプレゼント買ってお祝いしてあげようと思ってさ」
言われてみれば、私と同じ境遇なのだから当然そうなるか。ていうか荷田君バイトしてたんだね……秘密の特訓にでも行ってるのかと思ってたよ……でも初めてのプレゼントか。そういうことなら! 俄然やる気出さないと!
「よし! 二人で最っ高のプレゼント、選ぼうね!」
するとまた荷田君は笑って、
「ありがと。でもまた肩に力入ってるよ」
そういわれてまた照れ笑いを浮かべてしまった。
でもイオちゃんって何が好きなんだろう。ほかの人と話してるとこ見てるぐらいでまともに会話したことほとんどないのよねえ。
そのとき私に電流走る! イオちゃんの好きなものと言ったらもうあれしかないじゃない!
「荷田君!私良いこと思いついた!」
◇◇◇
そして迎えた誕生日当日。プレゼントも無事用意できたし、パーティー用の料理は流さんが用意してくれてるし(いつもすみません)、あとは予約しておいたバースデーケーキを受け取りに行くのみである。というわけで荷田君、杏さんと再び町へ繰り出す。
「みっちゃんがプレゼント選んでくれたんだってぇ? 私みたいな年増の意見は参考にならないってか?」
いやいや杏さんそんなに年離れてないでしょ……荷田君もぎこちない笑顔を浮かべながら「いやいやそんなに年離れてないでしょ」と全く同じことを言っている。「冗談よ」と杏さんは優しく笑った。
「イオちゃん、喜んでくれるといいね」
杏さんの言葉に二人でうなずく。たまに面倒くさいけど基本は良い人なのだ。
「あ、私の誕生日9月19日だから期待しとくわ、よろしくね~」
…………基本は良い人なのだ。
◇◇◇
どうやらこの二人には私のことを面倒くさいと思う瞬間があるようだ。しかしそれがいつなのか私にはさっぱりだ。まあそのことはまた別の機会に考えるとしよう。
そんなこんなで無事にケーキも買えて帰路についた。このケーキを家に持ち帰ればミッションコンプリートだ。イオちゃんの笑顔を想像して思わず顔がにやける。「杏さんありがとーっ!」なんて抱き着いてくれたりして……
その時突然爆音のサイレンが鳴り響く。えっ、何何? ビックリしてケーキを落としそうになる。が、敦彦がすんでのところでキャッチしてくれた。危ない、危ない。あれ? でも今のサイレンってもしかして……
廃鬼が出現しました。近隣住民の皆様は直ちに避難を開始してください。繰り返します、廃鬼が出現しました直ちに避難を――――
嫌な予感が的中してしまった。なんでよりにもよって今日なんだ。イオちゃんが一番祝ってもらいたいのは敦彦くんなのに。敦彦くんはケーキをみっちゃんに渡しながら言う。
「二人は先に帰って、このケーキを無事に家まで届けてくれ」
あんた……あれと戦えるのが彼しかいないのは分かっている。分かっているはずなのに
「何バカなこと言ってるの! あなたがいなくてどうするの!?」
思わず声を荒げてしまう。みっちゃんも、うんうん、とうなずく。しかし敦彦くんは
「大丈夫です。間に合わせます」
いつもより少し低い声で言い切った。「わかった」とここはひとまず彼を信じて帰ることにする。みっちゃんは不安そうに敦彦くんを見つめている。
「大丈夫よ。あの子を信じましょう」
そういってみっちゃんの手を引き走り出す。敦彦くん、絶対帰ってきなさいよ!
◇◇◇
ラボのアラームが鳴り響く。廃鬼が出現したらしい。敦彦君はすでに現場にいるようだ。今日はイオちゃんの誕生日パーティーといっていたが大丈夫だろうか? 顔は見えないが彼のほとばしる怒りは伝わってくる。やれやれ、冷静に頼むぞ。
「今日は何としても夕飯までに帰らないといけないんでな。さっさと片付けさせてもらうぜ」
廃鬼に言葉は通じないんだが……やはり冷静さを欠いているようだ。
「あー、レボルト。そいつの素体は冷蔵庫だ。せっかくだし少し頭を冷やしてもらったほうがいいんじゃないのかい?」
敵の情報とともに軽く冗談を飛ばす。
「冷蔵庫ね……あいにくケーキは蜜絵さんに預けちゃったんで、必要ないですね!」
冗談を聞く余裕もないみたいだ、相当焦っているな。普通に戦えば十分間に合う相手だが、このまま戦っていたらまずいな。
「敦彦君、さっきイオちゃんから連絡があってね。委員会の仕事で1時間ほど帰りが遅れるそうだ」
もちろん嘘だ。だが時間に余裕が生まれたことで少し落ち着きを取り戻したようだ。まったく世話の焼けるヒーローだ。
ソード・コンダクターで廃鬼を“殴り”つける。だからそういう使い方じゃないんだが……まあしかし優勢だな。敵も大分弱ってきたようだ。
「よし、そのままトドメを…………」
レボルトがトドメの一撃のために体勢を整える。しかしその瞬間、廃鬼が強烈な冷気を放ちレボルトは氷漬けにされてしまった。しまった、完全に油断していた。
「博士……これじゃあ身動きが……」
レボルトが知恵を求めてくる。打開策は……そうだな……
「よし、大丈夫だ。発電量を最大にするんだ」
しかしレボルトは「え?」と不可解そうな声を上げる。
「身動き取れない状態で……それこそ電池の無駄遣いじゃ……?」
仕方ない、説明してやるか。
「違う、モーターが回転すれば熱が生まれる。発熱のために発電するんだよ。君が熱源になるんだ」
「ああ! なるほど!」
彼も理解してくれたようで、やっと出力を最大にする。
Voltage max! 1000000V!
レボルトのモーターが急激に回転数を上げる。大量の熱が生まれ彼を縛っていた氷を溶かす。これで今度こそトドメだ!
「ミリオンボルトスラァーーーッシュ!!」
おそらく今名前を考えたのであろう必殺技を叩き込む。君のはスラッシュとは言い難いがね。まあなんにせよ、彼の怒りを乗せた一撃は廃鬼を打ち砕いた。この時間なら余裕で間に合うぞ。良かったな。
◇◇◇
いつも通りに学校が終わり、級友にまた明日と手を振る。いつも通りの日常。……いや、一つ見過ごせないことがある。ここ数日、兄と蜜絵さんがやたらとそわそわしていた。私もそこまで鈍感じゃないし大体察しはついている。ついているけど、やっぱりちょっと楽しみだ。
家のドアを開け、ただいま、と告げる。案の定返事はない。ここは定石通りリビングに向かう。リビングのドアを開けたその瞬間――――パンパンと5発のクラッカーの音が鳴り響く。なんて古典的な!
「せーのっ」「お誕生日おめでとーっ!」
蜜絵さんが音頭を取り私の誕生を祝してくれる。ここまで完全に予想通りだったけどやっぱり嬉しいものだ。
「イオちゃん! これ私たちから!」
蜜絵さんからプレゼントを手渡される。開けていい? と聞くと兄と蜜絵さんが嬉しそうにうなずく。箱を開けるとどこか見覚えのある腕輪が。
「ほら、イオちゃんの好きなものって何かなって考えたら、この家のみんなかなって思って。でね、それをつないでくれたのってレボルトだから、レボルト風のブレスレットにしてみましたー、なんて……どう?」
嬉しいけど……これ普段つけたりはできないかな、と考えていると
「あ、それにほらここ! ここに電池も入るんだよ! 光るんだよ!」
と意味の分からない補足をされつい吹きだしてしまう。
「あとあと! これみんなお揃いで作ったの!」
蜜絵さんに促されみんなが腕輪を付けた腕を示す。シュールな光景だが、それは本気で嬉しい。思わず、ありがとう、と蜜絵さんに抱き着いてしまう。杏さんがなぜか悔しそうに「ああっ」と声を上げる。蜜絵さんは「そこまで喜んでくれるなんて……」と涙ぐんでいる。兄はよく見たら完全に泣いている、なんで私より嬉しそうなんだ。流さんはその様子を暖かく見守ってくれている。博士は……寝てる? 今日は廃鬼が出たそうだし、しょうがないか。あとから聞いたが徹夜でこの腕輪を作ってくれていたらしい。
変なプレゼント……変な家族。でも、まあ、幸せ……かな。
4話・完
補足:プレゼントは敦彦が渡す予定でしたが、不安だった蜜絵さんが先走ってしまいました。




