30話「イブ」
博士はなぜ死んだのだろうか。俺がもっと強ければ死なずに済んだのだろうか。博士のお父さんが残したというメッセージ…
レボルトとイブが一つとなれば、彼らの想定を超えた力が生まれるだろう。
その“イブ”を見つければもっと強くなれるのだろうか。なんで何も言わずに行ってしまったんだ…
「あら、敦彦君ここにいたの。ちょっとラボの掃除するから。」
「姉さん、手間が増えるからじっとしててくれ…」
二人とも、なんでこんな何ともなさそうな顔してられるんだろう。
「二人は、つらくないんですか?」
心の中の疑問が思わず飛び出してしまう。すると流さんに胸倉をつかまれる。
「そんなわけないだろ?姉さんがどんな思いで…」
「流、やめなさい。」
杏さんに言われて流さんが手を離す。そうだよ、俺は何てこと…二人が一番辛いに決まってる。きっと俺のためだ。少し冷静になればわかることじゃないか。俺はなんでこんなに弱いんだろう。
「気にしなくていいからね。あ、さっき志波くんから連絡あったわよ。20時になったらテレビつけろ、って。」
志波さんから?でも何でテレビなんか…ていうか20時ってもうすぐじゃん!
「…でもどのチャンネル見てればいいんだ?」
分からないのでとりあえず適当にチャンネルを変えてみる。20時になった。突然テレビの画面が切り替わる。
「大牟田さんと…沙希さん?何で…?」
「志波さん、最終手段って一体何をするつもりなんですか?」
「ハッキングですよ。」
「おい、志波。それって犯罪じゃないか!」
「僕の友人が『敦彦君を頼む』って遺したんだ、そんなこと気にしてる場合か?」
「そんなことって…俺は良いけど風間さんまで巻き込んで…」
「いいじゃないですか!ワクワクしますね!」
「いいのかよ…。」
「よし、もうすぐ決行だ。オメガ、カメラの前に立ってろ。」
「え…ああ、分かったよ…」
「じゃあ、行くぞ。3、2、1。」
一体何がどうなってるんだ?どのチャンネルも同じ映像が映っている。
『はい!風見鶏ニュースが緊急速報をお知らせします!まずはこちらの映像をご覧ください!』
沙希さんが言うと俺がデルタの策に乗せられて暴走していた時の映像が流れ始める。なんでこの映像を?
『現在物議を醸しているこちらの映像ですが、今日はこの映像に物申したい、と言う方がいらっしゃっています!大牟田さんお願いします。』
『は、はい。えー、結論から言うと、レボルトが襲っているのは人間ではありません。』
『人間ではないと言いますと?』
『あれはEVです。今から証拠をお見せします。』
そう言ってスタンガンを取り出すと、サンダー・アーマーに使ってるのと同じ電池をセットする。そして一度大きく息を吸い込んで、スタンガンを自分の右手に当てる。
「大牟田さん!」
『俺もEVです。俺の右手、映像で襲われている人たちと同じ消え方してるでしょ?これが証拠です。』
大牟田さん…何でそこまで…
『にわかには信じられないことだと思います。でも、レボルトは、たとえみんなから嫌われても、みんなを守る道を選んだんだと思います。』
守られてるのは俺の方だな…博士も、そうだったのかな?
「情けねえ!皆を守るのは俺じゃねえのかよ!」
ありがとうございます。俺、もっと強くなります。だから…博士も見ててください。
「これでちょっとはレボルトへの風当たりが弱まるといいけどな。」
「お前もあそこまで体を張ったんだ。大丈夫だろ。」
そうだといいな。イオちゃんのこともあるし、まだ色々と心配だけど。
「支えてやらないとな。」
「…おい、待て。イオって荷田君の妹のことか?あの子がどうかしたのか?」
あれ、声に出ちゃってた?やばいやばいやばい。イオちゃんがEVだって志波が知ったら…
「ほら、あの、いろいろ心配してるんじゃないかなー、って。たった一人の肉親だし!」
「それはそうだが…それは今関係ないだろ?」
「そ、そうかな?はは…あ、風間さんもありがとうございました!」
「いえいえ、これでうちのアクセスも爆上がりですよ!」
現金な人だな。まあ、これで何とか誤魔化せたかな。そういえば、イオちゃんっていつからEVになったんだろう?
「おかーさん!“いもうと”生まれた!?」
「こらこら、病院で騒いじゃだめだぞ。」
「ほら、この子があなたの“いもうと”よ。」
あれは人間の家族か。楽しそうだな、私たちは繁殖能力がないから“子供”が生まれてうれしいとかいう気持ちはよくわからない。でもあの子供、かなり衰弱してる。あれじゃもうすぐ死ぬ。やっぱりそうなったら人間は悲しいとかいう気持ちになるのだろうか。私が感染すれば助けられるけど、でもそれはあの子が生きているということにはならないと思う。それに他の生き物の命に干渉するなんて、私が見限った彼らと同じ。でも…なんか可哀想。
「…ちゃん。イオちゃん!学校遅れちゃうよ。」
「蜜絵さん…おはよう…」
「泣いてる?怖い夢でも見てたの?」
怖くはないけど、このことを思い出すたびに突き付けられる。自分はこの子の体を間借りしているだけだと。私に優しくしてくれてる人たちも、私の正体を知ったらどうなるか。
「イオちゃん大丈夫?そんなに怖い夢だったの?」
「…大丈夫。」
分かっているけど捨てられない。人間の心を知ってしまったから。
30話・完




