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Revolt  作者: ハイマン
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29話「処刑人の矜持」

「バカだよな、直也も。馬鹿正直に一人で行くことなかったのにな。」

「志波、そんな言い方ないだろ。」

「…友人を二人も失ってしまった。まだそんな年じゃないと思ってたけど。」

「直也と…俺のこと?」

「お前じゃない。大牟田幸平のことだ。」

「俺じゃん。」

「違う。」

交野の家に向かう途中で偶然志波と会ったのだが、相変わらずこの調子だ。辛いなあ、俺がいなくなった時のこいつらもこんな気持ちだったのかな。俺と直也は一回ずつだけどこいつは二回だもんな。

「あ、大牟田さん、志波さん…」

交野家につくと敦彦が出迎えてくれた。想像以上に落ち込んでるな。

「あ!二人とも来てくれたんだ。ごめんね、わざわざ。」

杏さんも大分無理してるな。「後でラボに来い」と耳打ちされる。…きっと敦彦のことだな。

「これ、交野くんの遺言。」

そう言って一枚の紙を渡される。一言「敦彦君を頼む」とだけ書かれていた。

「ねえ、本人は吹っ切れてるみたいだけど、敦彦くんが世間から敵視されたままなのはやっぱりよくないと思うの。だから何とかできないかしら。」

俺達も何とかしたいけど、いい方法が全く思いつかない。

「報道関係者とつながれたら何とかなる。だが僕もオメガも全く伝手がないからどうにもできない状況だ。」

志波が分かりやすく説明してくれる。そうなんだよなあ…

「そういえばこの間ここに記者が来てたような…」

そういいながらラボの引き出しと言う引き出しをひっくり返し始める。故人のプライバシーは…

「あった!これ。」

風間沙希。名刺にはそう書いてある。

「ありがとう杏さん。あとは僕たちに任せてくれ。行くぞオメガ。」

「いや…フリーランスで活動してるって書いてあるぞ?あんまり発信力ないんじゃ…」

「バカか。はじめからフリーなわけないだろ。大抵は会社に所属して経験を積んでから独立するんだよ。独立前の伝手でも辿ってもらえばいい。」

「なるほど!さすが志波だ。」


「私大学出てすぐ父の助手になったので出版社に勤めてた経験ないんですよねー。」

「……………」

「えーっと…ま、まあこんなこともあるよな!ははは…」

例の記者さんに連絡を取って会う約束を取り付けたまではよかった。実際にあってみればこれである。

「まだだ…出版社に知り合いとかは…」

「父は他の記者には嫌われてる、っていうか…多分私が出版社に記事持ち込んでも門前払いですね。今は個人運営してるニュースサイトで記事出してます。」

「そのサイトの閲覧数は…」

「えーっと…あ、だいたいこんな感じです。レボルトの正体スクープしたときは一瞬だけ跳ね上がったんですけどねー。」

志波が食い下がるが、これでは広く世間に発信というのは厳しそうだ。

「…こうなったら最終手段だ。風間さん、最後まで相乗りしてもらいますよ…」

「もちろんですとも!こんな機会滅多にないですからね!」

この二人何を企んでるんだ…?

「決行は一週間後だ。お前はそれまでに体調を万全にしてきてくれたまえ。」

とは言われたものの…不安だなあ、あの二人何するつもりだろう。直也に敦彦を頼むって言われたしな。しっかり世間の誤解を解いておかないとな。そのためにも、俺はその作戦の日まで無事でいなくちゃいけない。…つまりこいつを倒さないといけないってことだ。

「今の殺気で気付いたか。」

「ベータ…もうリベンジに来たのか。」

「違う、私は負けてない!処刑人が罪人に敗北するなどありえない!」

こいつはこいつで頑固だな。あいつは根が戦士だから仕方がない。

「…お前、あれほどの力をどうやって手に入れた。」

「どうって…あれは俺とオメガの友情の結晶っていうか…」

「答える気がないなら構わん。腕づくでお前を超えてやる!」



「おい!ベータは居るか!」

「どうした、ガンマ。あいつなら処刑に行くとか言っていたぞ。まあどうでもいいがな。」

「シグマ…いたのか。それよりその話は本当か?」

「ああ、離反者を始末する立場のあいつがアダムの指示を無視するとは、皮肉なものだ。」

「ちっ…まあいい。あいつには既に“命令”してある。」

「あれか。…悪趣味な能力だ。」

「なに、大した命令じゃない。ただ『手加減するな』とだけな。」



ベータの飛び蹴りが肩をかすめる。いきなり全力かよ。

「もう手加減はしない…」

振り向きざまにもう一度蹴りを飛ばしてくる。前みたいに受け止めて逆電流を流してやる。

「な…へぇ、手加減しないってそういうこと。」

ベータの足を掴んだ手が大量の刃に串刺しにされる。防御だけじゃなく攻撃にも使うようになったか。全身に刃を生やして襲い掛かってくる。危ねえな。こいつのポリシー嫌いじゃなかったんだけど。まあいい、お互い全力の真剣勝負ってことだ。荊の鞭で牽制しながら応戦する。でも少し気になるな、動きに前戦った時ほどのキレがない。すまない、少しベータと話させてくれ。

「ベータ、お前正気か?ポリシーはどうした?」

「何を言う。罪人の処刑に手加減がいるか。それだけの事だ…!」

やはりな、あいつ正気じゃない。ベータほどの戦士ならば己の矜持を“手加減”などとは呼ばないはず。分かるのか?一度拳を交えればそれで十分だ。いや、拳は…まあいいや。あいつの誇りを取り戻したうえで決着をつけなければ寝覚めが悪い、ここは俺に任せてくれ。戦士って大変だな、良いぜ。頼んだ。

「ベータ、その戦い方は本当にお前が決めたことか?」

「当然のことを聞くな。手加減はしないといったはずだ。」

「じゃあ、この戦いはお前の意思か?」

「ああ、罪人を討ち損じたなど、私のプライドが許さん!」

恐らくガンマに軽い洗脳を施されている。多分、手加減するな、と言わているのだろう。外部から順電流を浴びせてやればガンマの洗脳は解ける、が万全な状態での決着は望めなくなるな。さてどうしたものか…

「戦いの最中に呆けるな!処刑人を愚弄するのか!」

怒られちゃったな。ああ、そうだ。迷うことなどない。あいつの誇りを取り戻すのが礼儀というもの。順電流ならば自身への負担はない、最大出力で放出する。

「ぐああ…これは…私は、なぜ処刑にこんな小細工を…」

「正気に戻ったようだな。さあ、決着だ。」

「正気…?ガンマの仕業か…あいつ…」

頭を押さえたままうずくまっている。やはりダメージが大きいのか?

「オメガ。私を殺せ。」

「なっ…何を言っている?ようやく決着をつけられるというのに…」

「己の信念を曲げたことで私の魂は穢されてしまった。…処刑人は高潔でなければならない。私の誇りのためだ。お前ならわかってくれると思う。」

「違う、お前はガンマに洗脳されて…」

「それも、そもそもは私がお前を討ち損じたこと、私の未熟さが原因だ。頼む、これ以上私を辱めてくれるな。」

「…分かった。」

身を投げ出したベータに今度は逆電流を充てる。

「お前のことは誇り高き戦士として、俺の心に刻んでおく。」

「戦士ではない。処刑人だ…」

オメガ、良かったのか?これもまた戦士の覚悟だ、受け入れてやらねばなるまい。…自分の命を捨ててまで守りたいものか、一度死んだ身からすれば理解しがたいな。お前も以前まではそうだったろう?…そうだっけか。




29話・完


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