28話「勝手な都合」
「敦彦、夕飯できたから教授呼んできてくれ。」
「了解っす!」
…あれ、いないな。どこか出かけてるのかな。
「あ、なんだ。杏さんもここにいたんですか。ご飯できてますよ。…杏さん?」
おかしいな、いつもなら脇目もふらずに飛び出してくるのに。
「敦彦くん、これ…」
博士のスマホじゃん。勝手に見て大丈夫なの?
「着信履歴…交野創史…?博士の家族ですか?」
「交野くんの父親よ。」
…え?博士のお父さんはもう亡くなってるはずじゃ…
「まさか!」
杏さんがうなずいて通話音声を再生し始める。
『デルタだな。用事は分かっている。』
『話が早くて助かる。一人で来てくれよ。』
これって、おい。おい。
「…俺、探してきます。」
博士、無事に帰ってこいって俺に言ったよな?自分は良いなんて勝手なこと言わないよな?その辺で寄り道してるだけだよな?
「博士!いるなら返事してくれ!おい!」
…いない。そうか、入れ違いになっちゃったかな。もう帰ってるのか。うん、そうに決まってる。何だよ紛らわしいな、博士がそんな簡単に死ぬわけ…
「交野直也は、死んだよ。」
誰だ、そんなバカげたことを言うやつは?そんなわけないだろ。
「彼は立派だったよ。君たちに希望を託して散っていったんだよ。デルタを道連れにして。…僕もとても悲しいよ。」
「あんた誰だよ。あんまり、ふざけたこと言うなよ。」
「申し遅れたね。僕はアダム、最初に生まれたEVだ。」
最初のEVだと?悲しいってなんだよ?お前の仲間が博士を殺したのに、よくもぬけぬけと…
「仲間を失ったんだ。それに人間は僕が育てた我が子のようなもの。僕の方がつらいよ。でも仕方ない、悲しいけれど…人間はそのために進化してきたんだ。仕方ないよ。」
なんて勝手な奴だ…!カイも十分クソ野郎だったけど、こいつはその比じゃない。
「てめえ…」
「待って。戦いに来たんじゃないんだ。最終通告をしに来たんだよ。」
最終通告だと?どうせ碌な話じゃないんだろ。
「君たちが大人しく僕たちの支配下に置かれてくれるなら、これ以上無駄に命は奪わない。君たちは僕たちの想定以上の進化をしてしまった。抵抗を続けるなら殺して無理やり乗っ取るしかない。僕たちは自由に動ける体がほしいだけなんだよ。」
「手に負えなくなったから、力で無理やり抑えつけるって?随分勝手な親だな。」
「僕も本当はこんなことはしたくないんだ。でも仕方のないことなんだよ。」
さっきから、仕方ないってなんだよ。お前たちの思い通りになってたまるかよ。
「断るに決まってんだろ。ヒーローが投げ出してどうするんだよ。」
「はぁ…悲しいなあ。分かった、力の差を見せてあげるから。それからもう一回じっくり考えるといい。」
力の差、だと?やれるもんなら…やってみろよ!
Thunder armor set up! Type_Revolt!
「おらあ!」
「…荒っぽいね。」
攻撃は当たっているが…効いている感じが全くない。ていうかわざと受けているような感じがする。
「そんなものかい?」
「…こんなもんなわけないだろ!」
Reset! Mode:Spark!
これならどうだ!?これでも効かないのか?カイみたいな防御能力か?
「僕はほかのEVとは根本的に違う。そろそろ考えを改める気になった?」
「ならねえよ!」
Voltage max!! 1000000000V!!
「ビリオンボルトスラッシュ!!」
「…それが限界?」
渾身の一太刀は片手で軽く受け止められてしまう。確かに根本的に違う。こいつは…単純に強い。そのまま思い切り地面に叩きつけられる。
「これが力の差だよ。追い付けないでしょ?だから考えを改めて?」
倒れている俺を見下ろしながら語りかけてくる。そうだな…俺とこいつとじゃ力の差がありすぎる。
「だからって諦めるかよ!」
アダムの足にソード・コンダクターを突き刺す。…これでも何ともないのかよ。
「それが君の答えか。…残念だよ。」
本気で悲しそうにしているのが余計にむかつく。こんな奴に、負けるのかよ。
「…はぁ。やっぱり殺せないや。ごめんまた今度にするよ。」
は?こいつ今度は何を言いだすんだ。本当に立ち去っていきやがった。
「…ただいま。」
「敦彦くん!交野くんは?」
「勝手な人だよな。俺には無事に帰って来いって言うくせに、自分は…自分は…」
嘘…。でも私まで暗い顔しちゃだめよね。
「…そっか。とりあえず中入りなよ。夕飯食べずに飛び出してたでしょ?」
せっかく立ち直ったと思ったらこれだもんね。…残酷ね。
「流、ちょっと。」
「何?」
交野くんが死んだことを流に伝える。しばらくフリーズするので意識の回復を待つ。
「もういい?」
「え?ああ、うん…」
「気持ちはわかるわよ。でも私たちまで暗い顔しちゃダメ。あの子を支えないといけないんだから。」
「姉さん…分かってるけど…」
「だったらそんな顔しない。笑ってごらん?」
弟がぎこちない笑顔を見せる。ため息が出そうになる。
「そんな笑顔じゃ余計辛くなるでしょうが!ほらもう一回!」
「こ、こう?」
「全然ダメ!もう一回!」
弟まで巻き込んで勝手な姉だと思う。でも、あの子を支えてあげるのが交野くんの希望だと思うから。
「こうか!?」
「ダメ!もういっかぁい!」
28話・完




