3話「サンダー・アーマー・システム」
この家の新たな居候、布藤蜜絵さん。姉さんや敦彦と違って積極的に家事を手伝ってくれるので非常に助かっている。
「あっ、私も畳みますよ」
洗濯物を畳んでいると、そう声をかけてくれた。本当にいい子だ、姉さんにも見習ってほしいものだ。
「そういえば、今日荷田君見かけないですけどどうしたんでしょう?」
「ああ、廃鬼が出たから戦いに行ってるよ」
そう答えると彼女は目を丸くした。ああ、そうか。彼女にはまだ事情を説明してなかったのか。本来交野教授がすべきことなのだが、仕方ない。
「荷田君がレボルトだってことは、この家のみんな知ってるんだ。それに、そもそもレボルトを、サンダー・アーマーを作ったのは、交野教授なんだよ」
◇◇◇
二週間ぶりの出現。敦彦君と杏さんが出動してくれている。ラボのモニターからレボルトの様子を観察する。
……敦彦君は立派に戦ってくれているが、僕はまだ申し訳ないと思っている。彼は本来戦う必要のない人間だった、しかし引き受けてくれた。
おっと、考え事をしている場合じゃない。敦彦君が交戦を開始したようだ、杏さんから届いた分析結果をもとに指示を送る。
「その廃鬼の素体は掃除機だ。吸引力も文字通りサイクロン並みだ」
「ふーん、じゃあ気を付けないとだね」
「いや、あえて吸われよう」
「博士、俺のこと嫌いなの?」
いや、大好きだとも。感謝しているよ。心の中で答えた後指示を続ける。
「吸引の勢いを利用して一気に相手の懐に入るんだよ。君はそういう戦い方のが性に合っているだろ?」
「なるほど」と答えると“ソード・コンダクター”を取り出す。高伝導率の合金でできた剣。切り付けた傷口から直接電流を流し込むことができる武器……なのだが、敦彦君が使うと鉄の棒で殴っているのと大差ない。
殴りかかってくるノズルをソード・コンダクターで振り払いながら機会を窺う。廃鬼のモータ部分の温度が上昇する。
「レボルト、来るぞ」
瞬間廃鬼が吸引を開始する。敦彦君は吸い込まれながらも体をコントロールして、懐に入り込む。よし、上手いぞ。そのまま決めろ。
「おおおらああああああああああ!!」
そう叫ぶとソード・コンダクターで思い切り“殴り”つける。だからそういう使い方じゃないんだけど……まあ、倒せたからいいか。
「敦彦君お疲れさま。気をつけて帰ってきてね。あと牛乳買ってきてくれる?」
彼は「はーい」と気の抜けた返事をした。とりあえずこれで一安心か、仮眠でも取るかな。そう思ったところでラボに蜜絵さんと流君が入ってきた。何の用だろう。休ませてほしいところだが二人は頑張ってくれているし、聞こう。
「あの…レボルトを作ったのが交野博士だって聞いて、それで、私何にも知らないなって思って」
蜜絵さんが遠慮がちに言った。そんなこと気にしなくていいんだけど。まあこの家で暮らすなら避けては通れないか。
「分かった。話すよ、サンダー・アーマー・システムと、レボルトのこと」
サンダー・アーマー・システム。僕の父が設計し、僕が完成させた“EV”を消滅させるための装備だ。
EVは宿主となる機械に電流を流し意のままに操る。サンダー・アーマーによってそれとは逆電位の電流をぶつけることで、無力化する。
このサンダー・アーマーを使って戦っていたのが“ボルテッカー”大牟田幸平。僕の10年来の友人だった。彼は勇敢な戦士だった。だが彼は戦いの中で命を落とした。
僕は悲しむ暇もなく後任を探さねばならなかった。しかしサンダー・アーマーは誰にでも使えるわけではない。自身の体に流れる電流にも耐えうる強靭な体の持ち主でなければならない。
そんなときに出会ったのが敦彦君だった。
「あの、これ落としましたよ?」
振り返ると少年の手には、サンダー・アーマーの起動装置であるブレスレットが握られていた。大事なブレスを落としてしまうなんて、気を付けないと。軽く一礼して受け取ろうとする。しかし少年はブレスを握った手を放してくれない。
「あなたが、ボルテッカー?」
ボルテッカーを知っているのか。いや、しかし僕はボルテッカーじゃない。
「違うよ。ボルテッカーはもう……」
少年はえっ、と声を上げるとしばらく考え込んだのちこう言った。
「なら、俺がボルテッカーになりますよ!」
何を言っているんだこの子は。やってくれるというのなら願ったり叶ったりだが生半可な気持ちで戦いに身を投じれば辛い思いをするのは彼だ。託すかどうか決めるのは彼の覚悟と適性を見てからにしよう。そう思ったときサイレンが鳴り響いた。
近郊に巨大生物が出現!直ちに避難を開始してください!
――――間違いない、廃鬼だ。早く逃げなければ。おい少年どこへ行く? そっちには廃鬼が―――
「俺ボルテッカーに助けてもらったことあるんで、これの使い方知ってます」
少年はそういってブレスのスイッチを押しサンダー・アーマーを起動しようとした。おい、よせ
「よせ!!それは誰でも使えるわけじゃないんだ!下手したら君が死ぬんだぞ!!」
しかし少年は僕の静止など気にも留めなかった。
「俺の両親、俺と妹を逃がすために自分たちが囮になって、俺、逃げることしかできなくて。俺もう嫌なんです、ただ逃げることしかできないの、嫌なんです。今度は俺が誰かを守りたい。ボルテッカーみたいに、父さんと母さんみたいに――――」
……驚いた。どうやら彼の覚悟は本物らしい。肉体の適性は測ってないが、彼なら使いこなしてくれる気がした。彼のような男にボルテッカーを託したい、そう思えた。サンダー・アーマー用の電池を彼に投げる。
「それをセットしないと動かないよ。」
彼も私の思いをくみ取ってくれたようだ。電池をブレスにセットする…そこはバシッとはめてくれよ。電池をブレスにセットし今度こそ、サンダー・アーマーを起動する。
Thunder armor set up!
Type_Revolt
ブレスの電子音が新たなヒーローの名を告げる。少年、君が2代目ボルテッカー、いや、レボルトだ!
「―――とまあ、そんなことがあって敦彦君はレボルトとなったわけだ」
まあ説明し足りないところは流君が補足してくれるだろう。ついでに映像の分析もやっておいてもらおう。
「じゃあ流君あとよろしくー」
「え!? ちょっと、教授!」
「あのっ、私も何かお手伝い……」
彼を支えてくれる仲間は多いほうがいい。
あの時は気づかなかったがブレスに触れる彼の手が、小刻みに震えていた。ならば彼の不安を少しでも減らしてあげるのが、巻き込んでしまった僕の責務だ。
◇◇◇
戦闘後にレボルトを通じて送られてきた映像を分析して廃鬼の行動パターンを調べる。
何も知らないよりかはマシかも知れないが、廃鬼の行動パターンが分かったところで敦彦がそれを生かしてくれるかは甚だ疑問である。
惰性で映像を見ていると手伝ってくれていた布藤さんが何かに気づいた。
「あの、この建物の陰に何かいるように見えるんですけど……これって、さんだーあーまー? じゃないんですか?」
まさか、と思って布藤さんの指さす場所を見てみると確かにそこにいたのはサンダー・アーマーだった。しかしレボルトとも、ボルテッカーとも違う形状をしている。あれはいったい何者なんだ?
◇◇◇
「やあ、お嬢さん」
一人で家に帰っていると男が声をかけてきた。ナンパかと思ったが男の姿を見て絶句した。サンダー・アーマー、しかしレボルトでもボルテッカーでもない。
「やっと見つけたよ。でもまさかレボルトの開発者のところに潜り込んでたとはねぇ。君もやっとみんなに協力する気になったのかな?」
誰があなた達なんかに、そう答えると男は続けた。
「え?ひょっとして人間に情が湧いてきちゃった?人間ごっこってそんなに楽しいんだ。僕もちょっとやってみようかなあ」
私の家族に手を出さないで! と返すと男は吹きだした。
「冗談、冗談! それに今はまだ泳がせておく時期だからね。君も、人間ごっこに飽きたら戻ったら? じゃ、バイバーイ」
そういうとそいつは姿を消した。もしみんなが私の正体を知ったら……私は……
3話・完