応援者を探せ
「失礼します。1年の小鳥遊楓と申します。今回の生徒会長選に立候補します!」
乱暴に生徒会室のドアを開いた僕を待っていたのは、予想だにしない質素な部屋だった。長机がコの字型に設置されており、パイプ椅子が人数分置かれていて、後は壁に立てかけられている。
申し訳程度に花が飾られているが、空間を鮮やかに彩るにはほど遠く、むしろ対比によって部屋の地味さが際立つ。
「立候補ありがとう。生徒会に興味を持ってくれる人がこんなに居てくれて、僕は嬉しいよ!」
生徒会室に入るや否や僕は金髪の男に肩を組まれていた。
金髪と言っても柄の悪い感じではなく、上品で映画に登場するような綺麗な色をしており、毛先にはゆるーくパーマがかかっている。
「さぁさぁ、こっちへきて。座って種類を書いていただきたいな」
このチャラくもどこか憎めない男がこの学園の生徒会長峰 宗一郎である。
その顔立ちと憎めないキャラ、そして何よりもイベントや集会での挨拶の短さによって生徒の人気を集めている。
でも、僕はこの男が好きではなかった。
この男の無駄に高いテンションに少し馴れ馴れしすぎるほどのコミュニケーション、丁寧なようでフランクな話し方、笑顔や仕草一つひとつでさえ、彼のものではなく、作られたものに感じるのだ。
何かに身を包み、自分を決して見せない。みんなの上の立場にありながら、自分だけその山の外から様子を見ているような気持ち悪さ。
しかし、僕には彼の指示に否定する勇気も理由もなく、彼が素早く準備したいパイプ椅子に座り、目の前の書類を埋めていく。
名前や学年、立候補の理由など基本的な項目をある程度埋めて峰 宗一郎に渡す。
「ありがとう。これで君も生徒会長候補の…ん?」
彼は何かに気付いたように動きを止めて
「はい?何か不備でもありましたか?」
反射的に僕はそう返す。
「君、応援者はいないのかい?」
「はい、僕1人ですけど、絶対に必要なもの何ですか?」
「いや、別に必ず必要というわけではないんだ。しかし、誰にも自分の人格を保証してもらえない人間が人が生徒会長になるのも…」
「やっぱり必要なんですか?」
「だからそういうわけではないんだよ。ただ…」
どんどん歯切れの悪くなる声を僕は最後まで聞き取ることができなかった。
ただ最後に「また、君でもなかったか」と呟いた。
初めて素の彼が見えた気がした。
「あの…この書類って持ち帰ってもいいですか?」
彼は僕の声を聞いて、またすぐに何かに隠れるように作られた笑顔を浮かべる。
「あぁ、構わないよ。むしろゆっくり考えて書いてくれた方がありがたい。でも期限だけは守ってくれよ」
鞄を持ち、立ち上がる僕に彼は無邪気を装うように大きく手を振りながら、「またきてねー」と声をかける。
僕は軽く会釈をしてから生徒会室を去る。
廊下を歩きながら、もう一度手に持った書類を見る。
「はぁ…応援者かぁ」
僕の人格を保証してくれる人なんて近くにいるのか?まず応援者なんて頼める人が何いるだろう。
さっきの独り言を聞いていたのか、下山 拓海が爽やかに小走りで僕に近づいてきた。
「応援者って?…うえっ、お前生徒会長になんの?」
勝手に書類を覗き混んでくる拓海に僕は呆れながらも書類を渡す」
「それでお前は走らないと移動できないわけ?それとも爽やかを演出してるの?」
「へー、まじなんだぁ!意外だなぁ、もしかしてこの前の一ノ瀬と関係あんの?」
「感のいいガキは嫌いだよ?」
「あ、ごめん触れない方が良かった?」
僕の渾身のギャグも華麗にスルーされたとこでさらっと本題に入って見る。
「あのさー、お前応援者になってくんない?」
「あ、俺?俺かぁ…手伝ってやりたいんだけど、部活あるし、放課後の時間割かれるのはきつい」
「そっかぁ、そうだよな」
「まじごめん!」
顔の前で手を合わせて頭を下げる彼に僕は笑って
「別に謝るほどの事じゃねーよ」
後は思い当たるのは彩ぐらいだが、彩に応援演説なんて任せられるはずもなく、一ノ瀬さんについてはこっぴどく断ったばかりだ。
「あのさー、それって一ノ瀬さんじゃダメなの?」
空気を読んでいるのか読んでいないのかわからないが、頭を上げた彼はその整った顔で僕を覗き込んでいた。