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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第三章 流転する運命
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第86話 三人の決意

 シガーラの鳴き声はいっそう大きくなった。太陽は天上から三人を照らし続けていた。

 白いはとがヨハネの上を旋回せんかいしながら飛んでいた。それは高度を低く取るとやがて彼の足元に降りて来た。そのくちばしにはなぜか季節外れのカラタチの花がくわえられていた。

 

「ペテロ、パウロ、お前たち二人はこの件に巻き込みたくない。だから商会に残ったまま情報だけ提供してくれ。そのために二人は今までどおり商会の仕事を続けてくれ」

「計画があるのか?」

 ペテロは聞いた。

「私はまだ奉公人頭だ。二人の売却が決まったふりをして馬車で商会から連れ出す。行先は二人の故郷ではまずい。あそこはアギラ商会の人間と取引している人買いがたくさんいる。人()()にカピタンに伝わってしまう。別の街が望ましい。ドン・フランシスコ二世の城下町がいいだろう。あそこはエル・デルタ以上に栄えている街だ。メグとマリアには織物の技術がある。私には馬車と土木の経験がある。そこで生活を立てる」

 ヨハネの考えは具体的だった。


「お前はよく俺に向かって『伝手つてはあるのか』と聞くだろ。ドン・フランシスコ二世の街に伝手つてがあるのか」

 ペテロは聞いた。

「……ない。だが今回は大急ぎでやらねばならない。二人は絶対に助け出さなければいけない。女の奴隷は、売春宿に売られるか、東インドの成金たちのおもちゃになるかどちらかだ。あの二人がそれを望むとも思えない。彼女らは自分の身を担保たんぽにしても自分の商売で生きていこうとした娘たちだ」

「分かった」

 ペテロは立ち上がりながら言った。

「ヨハネがそこまで言うなら協力しよう。俺たちはガキの頃からの友達だ」

「僕もやります」

 パウロは立ち上がった。

「頭のためならやりますよ。僕も『心の負い目』を作りたくないですからね」

 三人は輪になって両手を合わせた。

「それでこれからどうするんだ」

 ペテロは聞いた。

「速さが最優先だ。あのカピタンだ。マリアとメグの契約不履行けいやくふりこうが決まる前から、二人の売却先を決めていたかもしれない。でも焦ってはいけない。様子がおかしければ気付かれる。二人ともいつも通り仕事をしてくれ。そのまま、マリアとメグが今、どこにいるのか正確な場所を確かめて欲しい。おそらく女奴隷小屋だろう。だが別の場所かもしれない」

 ヨハネは珍しく早口でよどみなくしゃべった。


「場所が分かったらどうするんですか」

 パウロが聞いた。

「自分で助けようとはしないでくれ。二人はあくまで忠実な奉公人の態度を崩さないで欲しい。そうしなければ計画がばれてしまうかもしれない。実行するのは私のみ。失敗した時に責められるのも私のみ。もし女奴隷小屋に二人がいるのなら、奴隷の出荷のふりをして私が馬車で助け出す。別の場所なら考え直す。二人とも何か情報を掴んだら、私にすぐ教えてくれ。私はできるだけ自室か、台所にいるようにする」

 ヨハネは言った。

「もし救出がうまく言ったらどうするんだ」

 ペテロが聞いた。

「最初はニコラスを頼ろうと思う。悪所あくしょの『イゴールの館』を憶えているか? あそこは市参事会しさんじかいの力が及ばない所だ。ニコラスには迷惑をかけるかもしれないが、他に頼る人もいない。やむを得ない。とにかく二人とも、私たちがマリアとメグを助け出そうとしている事を絶対に気取られないでくれ」

 ヨハネは答えた。

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