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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第三章 流転する運命
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第82話 ヨハネの成長

 それでもヨハネは、パウロに対する気遣いを忘れなかった。


「お前の恋人のセシリアは無事だったのか?」

「はい、今ごろ、馬車で親元へ向かっているはずです」

 パウロは涙をぬぐいながら答えた。

「そうか……それは良かった……」

 ヨハネはそう言うと、眉間に皺を寄せて尋ねた。

「なぜメグとマリアだけ奴隷扱いなんだろう。ペテロ、何か知っているか?」

 ペテロは一呼吸、間をおいて答えた。

「……いいや、知らない。取りあえず商会に帰ろう。それで様子も分かるだろう。だけど、メグとマリアの扱いについてカピタンや勘定係に食ってかかるなよ。平然としたふりをするんだ」


「なぜだ!」

 ヨハネは怒鳴った。

「そんなことしたらお前まで捕まって地下牢行きだぞ。聞き出せる事情も聞き出せなくなる。何事もなかったように偵察の報告をするんだ。そうすれば向こうから織物工房の事は話してくれるだろう。お前はあの工房を準備した責任者だったんだからさ」

「そうですよ、かしらが三年前と同じ事しちゃったら、何も分かりません」

 パウロが言った。

「どうしてそれを知っている?」

 ヨハネは驚いて言った。

「商会の人間なら誰でも知ってますよ。商会の女の子に惚れちゃって、その娘を売り払ったカピタンに噛みついたんでしょ。古参の奉公人から聞きました」

「……みんなそんな話をしてるのか」

「だからみんなかしらが好きなんですよ」


 パウロは笑顔で言った。

「あの恐ろしいカピタンに歯向かえる人なんてそういませんからね。女奉公人の間でも評判になってましたから。セシリアも言ってました。『素敵なお話ね』って」

 ヨハネは顔を下に向けると黒髪の頭をかきむしった。

「まずは商会に帰って報告をしよう。いつも通りに、平然と。そうすれば何か聞き出せるかもしれない」

 ヨハネは言った

「そうしよう」

 ペテロも同意した。パウロもうなずいた。

「なんか大変なことになっちまったみたいだなあ。その奴隷小屋に入れられちまったってのは、こないだおいらが市場で見た娘さんかい?」

 ニコラスは聞いた。

「ええ、そうです」

 ヨハネは答えた。

「ああ、あのお前さんのいい人のことかい。そりゃ怒るのも無理ないなあ」

「だから、違いますよ」

 ヨハネは慌てて言った。その様子をペテロは横目で一瞥した。

「なんだか大ごとになったみたいだなあ。おれは、街はずれの悪所あくしょにある『イゴールの館』っていう木賃宿きちんやどに住んでる。猫背のじいさんがやってる宿よ。用事があれば声かけてくれや。なあ!」

 そう言うとニコラスは自分の船のほうに行ってしまった。

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