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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第三章 流転する運命
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第79話 海への憧れ、土への執着

 ある島では、ニコラスは船を離れてどこかに行ってしまった。漕ぎ手たちは砂浜に寝転がり、島民から買った水や食い物を口にしていた。ヨハネとペテロは砂浜に残されて、午後の紺碧の海を眺めていた。二人は砂浜の上に横たわった石の上に座ると、海を眺めた。


「ひどい、様子だな。こんなに村人たちが苦しんでいるのなら、商会と取引できるような物はないだろう」

 ヨハネはペテロを見ながら言った。

「ああ、ひどいもんだ」

 ペテロはうわの空で海を見ていた。その先にはガレオン船が小さく見えていた。

「エル・マール・インテリオールの島には商機になるものはない、個人での交通は安全、島の衛生状態は極めて悪い、と報告すればいいんじゃないか」

 ヨハネは言った。

「そうだな……」

 ペテロは相づちを打った。

「あの子供たちはどうなるんだろうか。俺たちみたいに身を売るしかないんだろうか」

「そうだな……」

「島内で農業をやっていないようだ。土に手を入れればずいぶん変わりそうな様子なんだが……」

「そうだな……」

 ペテロはヨハネの話など聞いてはいなかった。遠くの海と船ばかりを見ていた。


「ヨハネ」

 ペテロはヨハネを見ずに少し大きな声で言った。

「お前は、この海を見て何にも思わないのか? あの巨船きょせんを見て血が騒がないのか? 俺はここでこうしているだけで、自分の心が遠くまで広がっていくような不思議な気分になる。胸の奥が熱くなる。お前はこの国から一歩も出た事がないだろう。この海の向こうには数えきれない程の国があってたくさんの人々が暮らしている。金と人が飛び交い、小さな戦がたくさん起こり、山を削って砦が築かれ、浜を削って港が掘られている」

「なにか伝手つてでもあるのか?」


 ペテロは驚いたかをでしばらくヨハネの顔を見ると、笑って話を続けた。

「ヨハネ。お前はこの狭い島国で地味な仕事ばかりやってるから判らないのさ。東インドは活気で溢れてる。昨日、流れ者だった人物が一月後には大金持ちになってる。去年、下っ端だった兵士が半年後には将軍になってる。そんな所なんだ。それに向こうの町並みはすごい。高い煉瓦造りの建物が並び立って、大きな宮殿も建ってる。大きな橋が幾つも架かって馬車が飛ぶように走ってる。エル・デルタみたいな町が幾つもあるんだ。豊かなんだよ。金持ちがたくさんいるんだ。あんな所に飛び込めば誰にでも機会はある。必要なのは勇気だけだ」

「奴隷も売り買いされているのか?」

「ああ、百万長者たちは従者をたくさん従えているし、小戦がしょっちゅう起こっているから、兵士はいくらいても足りない。奴隷たちは船で世界中から集められている。まあ、行った事ないお前には分からないだろうけどな」

「……」

「黙るなよ。怒ったのか? 俺はお前みたいに地道に仕事をこなすヤツは買ってるんだ。なあ、俺たち子供の頃からずっと一緒だろ。二人そろえば大きな夢がかなえられるぜ」

「どんな事をするんだよ?」

「でっかい、おっきな夢だよ。大金持ちになって、家来をたくさん使って、うちのカピタンみたいにさ。いや東インドに行けばそれ以上にだってなれるさ。ははっ」


 ペトロは頬と目を輝かせて早口でしゃべり続けた。ヨハネはペテロの考えに胸のざわつきを感じた。ペトロはたった数か月滞在しただけの東インドを理想の楽園のように思っているようだった。彼は目を輝かせて理想を語ったが、何一つ具体的な話は出てこなかった

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