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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第三章 流転する運命
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第69話 試し売りと栗鼠の踊り

「ちょっと」

 商館二階の廊下を歩いていたヨハネは、またメグに呼び止められ、服を引っ張られて物影に連れ込まれた。


「なに。どうしたの?」

「昨日の夜、布の試作品が織り上がったのよ」

「それはよかった」

「それで、試しに市場で売ってみてお客さんの反応を見たいの。良ければ今のままの方法で織り続けるし、悪ければ仕事のやり方を変えなきゃならないのよ」

「それで私はどうすればいいんだい?」

「次に立つ市場で試作品を売るための店を立てたいのよ。大きくなくていいのよ。棒に巻いた布を二十本持って行って売ってみるよ。勘定係に言われてるの。あの人すごくうるさいのよ。『絶対に赤字にするな』って」

「それはそうだろう。先行投資しているわけだから」

「それでね、このあいだ市が立った時、布売り組合のお偉いさんに頼んで場所を一つもらう約束をしたの。売上げの一分を使用料として払えば使わせてくれるって。だからあなたには馬車と屋台を組むための木材を用意してほしいのよ。できる?」

「分かったよ。取りあえず、組合の人に渡しを引き合わせて場所を見せてくれるかい? そうしないと細かい事情が分からないから。それから出店に使う木材は古道具屋で借りるよ」

「分かったわ。行きましょ」

「えっ、今から行くのかい?」

「そうよ。わたしはダラダラしてるのが嫌いなの」


 そう言ってメグはヨハネの袖を引っ張って、歩き出した。ヨハネはつんのめりながらもついて行った。

 

 ヨハネは古い馬車に老馬を付け、馬車の御者台ぎょしゃだいに座ると、工房の搬入口はんゆうぐちに横付けした。工房からメグが出てきて御者台ぎょしゃだいにスカートをひるがえして飛び乗った。ヨハネの左肩にメグの右肩が触れた。ヨハネは条件反射のように馬に鞭を与えた。老馬がいななき声を上げて歩き始めると、馬車はきしみ音を上げながら前へ進んだ。


 二人は織物組合おりものくみあいの世話役と話をして、一週間後の市への出店を取り決め、古道具屋に木材の借り入れを頼んだ。そして当日に備えて市の立つ港近くの空き地に馬車を走らせた。


 市場の予定地は海の見える広い平地だった。そこには多くの人足が地ならしと道づくりを行っていた。予定地の真ん中には南北に走る大通りが造られ、道の両脇には排水溝が彫られていた。

 さらにその大通りの左右には大通りと平行に、それぞれ三本の通りが造られていた。その脇通りに面した出店用の土地は、等間隔とうかんかくに杭と縄で区切られ、番号の書いた看板が立てられていた。メグの店に割り当てられて番号は二百五十一番だった。最低でもその数だけ、店が出るという事だ。


「ここに私の店が出るのね」

 メグはスカートを少し持ち上げながらその狭い空間を栗鼠りすのようにクルクルと回った。


「そんなにうれしいのかい?」

 ヨハネが尋ねた。

「それはそうよ。私たちの作った物が、やっと売り物になるんだもの」


 メグは頭の後ろで結んだ金色の髪をなびかせながら笑った。ヨハネはメグの様子を馬車の上からぼんやりと眺めていた。

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