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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第二章 拡がりゆく世界
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第60話 働くこと、食べること

 そこは少し前にヨハネたちが整備した路地だった。そこはヨハネが商会に来た頃には、悪臭が漂い糞尿が溜まる汚い路地だった。しかし、ヨハネは大通りでの作業で得た経験から、そこを清潔な道に作り替えた。


 そして今、織物を作り売る商売が始まろうとしていた。

 五年前にヨハネがこの街に来た頃とは少しずつ様々な物事が変わろうとしていた。

 

 街は栄え、豊かな人々が増えた。

 市場が開かれる回数も増えそこで売られる品物は舶来はくらいの高級品が扱われるようになった。街の通りは市参事会しさんじかいの人足によって清潔に保たれ、街を分割する三角州は頑強な石垣で補強されていた。その三角州の間を繋ぐアーチ型の橋は美しいを描き、この街の象徴になっていた。それらを造り上げる作業にヨハネは人足としてほんの少しだけ関わっていた。そのことに彼は小さくない満足感を覚えていた。


 が、彼はしょせん奴隷売買を行う商会の奉公人だった。人を売り買いする仕事の手伝いをしていた。しかも、この街で奴隷の売買ほど利益を上げる商売はなかった。商品はいくらでも供給されてきた。自分の身を売るしかない人間は国中に溢れていた。

 

 毎年、国中の貧しい家庭で多くの子供が生まれ、十数年経つと奴隷か、よくて奉公人としてあちこちに売買され転売され、アギラ商会のような奴隷仲買業はうるおった。その利益をヨハネもわずかながら受けていた。

 彼は奴隷売買をやめて織物のように何かを作って売る仕事、何かを生み出す仕事で生きて行けないだろうか、と真剣に考えていた。


 ある日の夕方、外出していたヨハネが奉公人用の入り口の扉を開けると、良い匂いの湯気が噴き出した。入りがけの台所では二十人の男奉公人たちが夕飯をかき込んでいた。大鍋の横には相変わらず老婆が火の番をしていた。

 

 ヨハネが頭になり、一番初めにした事が奉公人用の食事の改善だった。これは彼が、東インドで傭兵ようへいをしていたという沖仲士おきなかせから、強い軍隊は飯がうまい、との話を聞いて思い立った考えだった。

 今までひえきびを混ぜたひどい臭いのする粥が奉公人たちに与えられていたが、ヨハネはそれを止めさせ、栗の入ったアロースの粥に黒パンを付けた食事にした。食費は高くなり、勘定係は不満の声を上げたが、ヨハネはこれを強く主張して押し通した。


 その結果、奉公人たちの働きぶりは明らかに上がった。今まで解体現場や河ざらいの現場で、物鬱ものうげに作業していた彼らは軽快に動くようになった。笑顔が増え、冗談をよく言うようになった。以前の粥を苦い薬のように飲み下していた彼らは、今では食事を楽しんでいた。食べ物はすべての基本なのだ、とヨハネは改めて思った。

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