表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第二章 拡がりゆく世界
61/106

第59話 機織り歌

 しばらくして、商会に糸が届くと、織物工房の女奉公人たちはすぐに仕事を始めた。

 ヨハネたちの手を一切借りずに、娘たちは木綿糸もめんいとの詰まった箱を開けて、糸を手でしごいて柔らかくした。固めの糸で経糸たていとの列を作ると、緯糸よこいとに巻き付けて作業を始めた。工房からは娘たちが踏木ふみきを踏み、おさで糸を締める音が聞こえ始めた。初めはバラバラだったその音も、しばらくするとそろって聞こえ始め、それに合わせて歌声が聞こえてきた。


 さんよん倍する数の

 絹と木綿の布地を編んで

 天のお方に献上すれば

 その見返りはさあ何ぞ

 白く輝く真珠玉しんじゅだま

 天使の羽織る絹衣きぬごろも

 心優しい旦那様だんなさま


 その歌声は商会やその表通りまで響き、聞く者の心を晴れやかにさせた。


 今まで奴隷売買をしていた商会の奉公人たちはその歌声に聞き入った。特にその商売に後ろめたさを感じていた者の心は娘たちの歌声に浄化され、みな自然に笑みを零した。彼女たちが始めた新しい仕事は商会の人々の心を少しずつ動かし始めた。


 特に心を乱されたのが若い男の奉公人達だった。彼らは娘たちが気になって仕事が手に付かなかった。頭のヨハネは、織物工房の中をのぞこうとする若い奉公人たちの襟髪えりがみを掴んでは引っ張り戻す作業を繰り返さなければならなかった。

 そんな日々が数日続くと、織り上がった木綿の糸の束は運搬用の木箱に山のように積み上がった。ヨハネとメグは、綿織物の問屋といやに製品の評価を頼んだ。

「これだけの物なら、十分に商品になるし、良い値で売れるだろう」

 問屋の主人は笑顔で言った。


 ヨハネは工房に行く機会があると、マリアがいないか必死に目で探した。しかし彼女の姿を捕らえられなかった。ただ一階の作業部屋の奥に、一人だけ革靴を履かずにサンダルを履いて織機おりきの前に座っている黒銀色の髪の娘を認めただけだった。


「なにやってんのよ」

 作業部屋をうかがう度にヨハネはメグに怒られた。

かしらのあなたが、中をきょろきょろのぞいてどうすんのよ。あなた取り締まる方でしょ。今日も奉公人の男の子が窓からのぞいてたのよ。何とかしなさいよ」

「わかってるよ」

 そう言ってヨハネは肩を落として工房を出て、商会までの裏路地を歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ