第56話 指揮権移譲
メグは搬入口に立ちながら、新人たちを大声で指図した。
「慎重に運んでね。壊れやすい道具が入ってるの。ちょっと歪んだだけで使い物にならなくなるのよ。大事に運んで」
工房の搬入口に止められた馬車からは大量の木箱が運び出されていた。その細長い木箱の中身は、机や寝台とは違って繊細な道具らしく、メグはスカートを両手で強く握りながら左右に歩き回って指示を出していた。
「ゆっくり、ゆっくり降ろして。壊れないように」「ちょっと!一人で運んじゃだめよ。軽い箱でも必ず二人で運んで」「逆さにしちゃだめよ。必ず蓋を上にして」
ヨハネは新人たちを指揮するつもりでいたが、織機の部品が壊れやすいものだと知ると、指揮権をメグに譲った。ヨハネは仕事を奪われて黙然と立っていたが、すぐ新人たちに交じって木箱を運んだ。
すべての木箱が一階の作業部屋に運ばれると、メグは箱を一つ一つ開けて部品を確認した。
「千切、千巻、筬、綜絖、踏木、一番大事なのが杼よ」
ヨハネと新人たちはそれをただ眺めていた。
「さあ、部品はそろったわ」
メグはそういうと、二階へ続く階段の下までスカートを持ち上げて小走りに走ると、上に向かって叫んだ。
「みんな! 部品がそろったわ。組み立てるわよ」
二階から十八人の娘たちが革靴の踵を鳴らし、スカートをひらめかせながら一斉に降りてきた。
「みんな組み立てにかかって。糸が届き次第、仕事を始められるようにしてね」
メグは彼女たちに言うと、振り向いてヨハネたちに笑顔で言った。
「奉公人頭さん、奉公人の皆さん、お手伝い有難うございました」
ヨハネたちは自分たちがもう用済みになったと気付くまで少し時間がかかった。ヨハネは新人たちの背中を押して工房から出るように促した。彼自身も最後に外へ出て、扉を閉めようとすると、メグがまた小走りに駆けてきた。
「今日は本当にありがとう。あとは糸が届けば仕事を始められるわ。布が出来たら見せてあげる。それから、男の人はできるだけ工房には近づかせないでね。女の子がたくさん寝泊まりしてるのよ。当然でしょ」
そう早口で告げると、パタンと扉を閉めた。
ヨハネはまた呆然と立ち尽くした。




