第54話 花々
すぐにヨハネは、新人奉公人の半分を連れて、知り合いの古道具屋に顔を出した。ヨハネはその店で、二十人分の寝台と小さな机、ついたて、そして織物出荷用の箱を幾つか買い付けた。
それらをバラバラにして商会の馬車に積むと、織物工房まで運んで帰った。薪割りと水汲みの準備は、残りの新人奉公人たちがやり終えていた。ヨハネは全員に寝台の部品を二階に上げる作業と組み立てを命じた。十人の新人たちはあっという間に作業を終わらせた。ヨハネは新人たちに早めの昼食を採らせに商会へ帰らせた。そこにメグが帰ってきた。
「すごい。ほんとにすごいわ。こんな短い間に出来上がるなんて、これでいつ他の女奉公人たちを連れてきても大丈夫ね。わたしも話をして来たわよ。明日、織機を取りに来てくださいって。行ける?」
「分かった」
「台所は?」
「水と薪が用意してある。鍋と食器は商会の物を使えばいい」
「寝台の上には何を乗せるの?」
「寝藁と布だよ。まさか羽根が使えると思ってたんじゃないだろうな」
メグは右手で左手の手首を強く掴むと、唇を尖らせた。
「それで、他の女奉公人達はいつ来るのかな」
「もう来てるわ。あなたはここで待ってて。みんなを紹介するから」
メグは工房の外へ出て行った。外から高い話声と笑い声が鳥の鳴き声のように聞こえてきたと思うと、入り口からメグを先頭に、メグと同じ黒い女中服に革靴を履いた若い娘たち十数人が一気に入ってきた。ヨハネは驚いて数歩下がると、娘たちは隣同士ひそひそ話をしながら、クスクスと笑いざわめいた。
メグは振り向いて娘たちに向かって言った。
「みんなこの人が奉公人頭のヨハネよ。一人ずつ紹介するから、紹介し終わったら、二階に上がって寝台を決めてね」
娘たちは一人ずつヨハネの前に出た。
「いちばん機織りが上手なセシリア、お料理が上手なビアンカ、歌の好きなミランダ、イネスは刺繍が上手、モニカは物知り、シルビアは暗算が得意、作業が早いテレサ、心優しいダナ、靴も造れるイザベル、お洗濯が好きなエレナ、髪結いが上手なエマ、頑張り屋さんのガブリエラ、しっかり者のソフィア、誰とでも仲良くなれるアメリア、読み書きができるラウラ、お話上手なリサ、一番賢いリヒア、村一番の美人エステル」
彼女たちは、簡単な紹介をされると笑顔で膝を少し曲げ会釈をしては二階にパタパタと足音を立てて上がって行った。
ヨハネは次々と娘たちを紹介されて、うなずきながら目を瞬かせていた。みなメグと同じくらいの年で、髪の色も肌の色も様々だった。ただみな首にJ字型をした青い石を下げていた。
「みんな、わたしと同じ村の女の子たちよ。その村の女たちはみな織物をするの。みんな首飾りをしてたでしょ。あれはわたしの村で採れる石なの。お友達の証し。あなたも付けてくれた?」
「ああ」
ヨハネは自分の胸元をくつろげて、服の下から麻縄の先に付けた赤い石をメグに見せた。
「よかった。付けてくれなかったら、どうしようかと思った」
メグも鎖骨の間に青い麻縄で付けた赤い石をヨハネに見せた。
「外しちゃだめよ。一緒に仕事をする仲間のしるしなの。外す時は仲間をやめるとき」
ヨハネは赤い石をしまいながら尋ねた。
「分かったよ。でも、まだ君もあわせて十九人しかいない。もう一人はどうしたの」
「一緒に来るはずだったんだけど、遅れているのかもしれないわね。わたしの一番の親友なのよ。子供の頃からずっと一緒なの。マリアっていう娘よ」




