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ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第二章 拡がりゆく世界
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第50話 町並みと悩み

 ヨハネは自分の部屋に帰るとその狭い部屋に光りを入れようと蔀戸しとみどを開けた。夕日が差し込み、ほこりだらけの部屋に光りが差し込んだ。二階から眺めるエル・デルタの通りは多くの人々が行きかっていた。みな髪と皮膚の色は千差万別で、ここから見る限り人々が苛烈かれつな身分社会に生きているようには見えなかった。しかし実態は、ワクワクが最下層の奴隷として売買され、混血のムラートたちは二流の人間として扱われていた。ヨハネもそうだった。みなそれぞれの厳しい人生を送っているはずだった。


 アギラ商会は奴隷仲買どれいなかがい生業なりわいにしている。どこかから奴隷を買ってきて、それを売る、儲けを出す、それだけの仕事である。そこには何かを創り上げる楽しみも、他人の幸福を願う喜びもなかった。カピタンのトマスは精力的にその人脈を使っては、注文通りの奴隷を買い集め、しばらく商会裏の小屋に奴隷たちを住まわせると、どこかに高い値段で売っていた。


 トマスは悪人だろうか、とヨハネは考えた。

 悪人かもしれない、だが、その下で奴隷売買の手伝いをしているヨハネも同じだった。悪人の手伝いをする者もまた悪人だ。奴隷たちは、極貧のワクワクや混血と蔑まれるムラートたち、そしてコーカシコスの外見をしていても、ワクワクの血が少しでも入っただけで、社会の最下層に押しやられる人々だった。


 奴隷たちは家畜扱いされたが、家畜として大事にされた。大事な商品、高い金で買った道具として大切にされた。この商会での奴隷の立場について考えるのはヨハネにとっては難しかった。奴隷たちは奉公人より良い食事を与えられ、清潔な着物を与えられた。病人が出れば獣医が呼ばれた。ただ、それは奴隷たちを人間として尊重しているわけではなかった。商品として大事にしているのだ。


『奴隷は物であり、あの奴隷たちは私の所有物だ』

 

 三年前、トマスがヨハネに無機質な声音で放った言葉をヨハネは思い出していた。『奴隷は奴隷である限り、物扱いされるが衣食住には困らない』と誰かに言われれば、ヨハネには返す言葉もなかった。ヨハネもマール・デル・ノルテ沿岸の極貧の村で生まれ育った。そこはただ生きて行くだけの事が人々の最も難しい目的だった。

 人々は常に餓えながら、風土病と砂嵐を畏れ、ただ死んでいった。しかし、彼らは奴隷ではなかった。何も人々を拘束しなかった。だがそれ故に苦しみ死んでいくのだ。

 そこまで考えると、ヨハネは天井を見上げて深いため息をついた。そして考え続ける事をあきらめた。

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