第49話 新しい工房
ヨハネは部屋を出て階段を下りると、奉公人用の出口から裏路地に出た。
そして彼は商会の隣にある建物を見上げた。
二階建ての煉瓦造りの建物だった。確か燻製肉や乾物を卸す商会が入っていたはずだったが、今は空き家になっていた。中の設備はそのままになっていた。勘定係から預かった鍵を使って勝手口を開け、中に入った。ヨハネは咳き込んだ。そこは台所だった。かまどの横に薪が積まれ、古い鍋が幾つか転がっていた。彼はシャツをたくし上げ、それで口と鼻を隠しながら隣の部屋へ移った。そこは幾つも木箱が積み上げら、散乱している倉庫だった。そこも埃とゴミだらけで、明らかに誰かが侵入して家探しをした形跡があった。部屋の奥には煉瓦のしっかりした階段があった。それを昇ると、二階は机と椅子が置かれている広い部屋だった。そこもひどい埃に覆われていたが、小さな南側の小さな鎧戸は開けたままになっており、太陽の光が差し込んでいた。窓からは商会の二階と男女それぞれの奴隷小屋がよく見えた。二階の部屋の奥には木製の扉があり、そこを開けると建物の外に木製の階段が付けられその下は一回の台所の側に続いていた。
ここを機織りの作業場として、人が寝泊まりできるよう作り直さなければならない。台所も必要だ。ヨハネは頭を巡らせ始めた。荷物を運ぶ必要のある作業場には一階が良いだろう、奉公人が寝泊まりするのは二階にするべきだ、台所は水回りを確かめてからもう一度考える必要がある、そんな事を考えながらヨハネは取りあえず、このすさまじい埃を掃除しなければならないと考えて、大きなため息をついたが、その時また埃を吸い込んで涙が出るほど咳き込んだ。
次の日からヨハネは奉公人たちを使って新しい建物の掃除を始めた。みな退屈な仕事を嫌がったが、少しずつきれいに変わっていく部屋を見るのはヨハネにとって喜びだった。掃除を終えた後は、勘定係と話し合いを持った。彼は、一階には中古の機織り機械を二十台入れる事、それを操る機織り奉公人たち二十人分の寝床と寝具が必要な事、食事と洗濯をするための設備を準備する事などを話した。
最後に勘定係は言った。
「二十人の奉公人はみな女だ。その女たちを従える女奉公人の頭と今度引き合わせるから、その人物と話し合いながら内装や水回りの事は決めろ。既定の予算を超えない限り細かい事は任せる」
二十人の女たちを従える女奉公人の頭、と聞いてヨハネはいつか会った沖仲士頭の女房を連想した。彼女は沖仲士たちから恐れられている沖仲士頭から恐れられている存在で、筋肉と贅肉がたっぷりと付いた中年女だった。加えて、弁が立ち力も強くてみなから一目置かれていた。そんな女と話し合うとなると、どれだけ気押されるのだろうか、とヨハネは気を重くした。




