第47話 揺れる髪、鈴の鳴る髪
蒼く大きな瞳の、横に切れ長の目が、ヨハネの視線を捕らえた。すぐにその瞳はヨハネの全身を確かめるように上下に動き、そして正面に戻った。桜色をした小さな唇の口角が、少し上がって微かな笑顔が造られたが、すぐにそれを打ち消すように唇が尖った。ヨハネは、こちらに近づいて来るその娘の姿を見つめた。彼女は長い金色の髪を頭の後ろで一筋に結んでいた。背筋を伸ばして歩く彼女が革靴の踵を絨毯の上に落とす度に、背中まで垂れた髪が鈴の音を立てるように揺れた。彼女はスカートの丈が脛まである黒い女中服を着ていた。だが、その襟と裾から覗くレースは、黒によく映える強い白だった。
彼女の前を歩いている勘定係が片腕で抱えていた書類を落とした。彼がそれを拾いに屈むと、後ろを歩いていたその娘は廊下の内側に体を寄せた。その横をヨハネが通り過ぎた瞬間、ヨハネの左手の外側が、彼女の左手の外側に触れた。二人がそのまますれ違おうとすると、二人の小指が絡み合った。二人はお互いに左を向いてお互いの瞳を一瞬だけ見つめ合った。そしてそのまま二人は離れた。娘は振り返らずに髪を揺らしながら歩き去った。ヨハネは彼女の後姿を追うように首を振り返らせた。
美しい娘だ、とヨハネは思った。




