表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガレオン船と茶色い奴隷【改訂版】  作者: 芝原岳彦
第一章 奴隷たちの島々
30/106

第28話 トマスの出自

 木造家屋の解体、階段の石積み、馬小屋の清掃、下水の掃除、用水路の底さらい、河底の石運び。ヨハネは様々な肉体労働に毎日駆り出された。

ティーの言葉はヨハネの心を針のように刺し続け、頭を冴えさせた。きつい労働はヨハネの若い体を少しずつ削り続けたが、ティーの言葉はヨハネの心をかき乱し続けた。働きながらヨハネは考え続けた。


 ヨハネの年季奉公契約は六年間だった。


 給金も無く、辞められもしない。しかし衣食住に困る事もなかった。それにティーの言う通り、逃げた所で何もできなかった。


 ヨハネは仮に自分が逃亡したらどうなるか、考えてみた。毎日の過酷な労働からは逃れられるだろう。しかし食べ物も住む所もなくなる。あの土臭い粥すらなくなるのだ。服もすぐに擦り切れるだろう。仕事を見つけるのは難しかった。逃亡した奉公人が仕事に就くのは極めて難しいはずだった。ヨハネは基礎的な読み書きと簡単な計算ができるだけだった。当然、裏社会に身を投ずるハメになるだろう。だが裏社会の仕事は別の意味できつい労働であるはずだ。街外れにある貧民街には街から疎外された者たち就く仕事があるかもしれない。しかしそこでは毎夜、何かしらの事件が起こり、朝になると変死体が見つかり、犯人はようとして知れなかった。貧民街の宿屋には若すぎる女から老婆までが酌婦として置かれ、握り拳にタコを作った大男の管理の下に置かれていた。男娼だんしょうまでいるという噂が流れてきた。それが、ヨハネやティーが逃げた後のなれの果てであるはずだ。


 しかし、しかし、とヨハネは何度も考えた。奴隷や奉公人から立身出世したものがいるのだろうか。市参事会しさんじかいに出資している街の有力者たちはみなコーカシコスで、生まれながらの大金持ちだったはずだ。商会のカピタンであるトマスはどうだっただろうか、とヨハネは思い出そうとした。トマスの目の色はヨハネと同じ青色だった。しかし体つきと肌の色はワクワクの血がたっぷり入ったヨハネとさほど変わらなかった。上等な服を着て、書類に字を書き付けているトマスの姿をヨハネは何度か見ていた。そう言えば、トマスの出自を誰も知らないのではないか、とヨハネは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ