第25話 望郷
最後にヨハネは視線を右、つまり北に向けた。
エル・デルタの北には、この島の脊梁と言い得る大山脈が横たわっていた。街の北から低い丘が幾つも並び、その北には低い山々の尾根がついたてを何重にも並べたように東西に延びていた。それらは北にいくほど徐々に高くなり、ついに山上に白い雪を頂く高峻こうしゅんな山々が聳え立っていた。
その先はここからは見えなかった。
ただヨハネはその山の先を知っていた。
その先は、これまでとは反対に山が徐々に低くなり、やがて、さほど広くない砂の土地が現れるはずだった。
その砂地は大山脈からマール・デル・ノルテと呼ばれる北の海に向かって台形が飛び出したような形をした土地だった。その北側は低い山が壁のように立ち、北の海からの風を壁のように防いでいた。
しかし西の海岸から吹く強い砂嵐が常にその土地を苛み、そこに住む人々をなぶり続けた。
大山脈の雪解け水が河になってその土地に流れ込んでいたが、その河はそこを潤す事なく湖に流れ込んだ。その湖の水は真水ではなく汽水だった。その湖から流れ出た河は海が入り込んだ入り江に繋がり、マール・デル・ノルテへと通り抜けた。
砂と塩水と強い海風、それが砂の土地のすべてだった。
もちろん人が住むには適していなかった。この土地に興味を持つものはなく、ただ地生えのワクワクたちが小さな村を作り、稗を育て粟を拾って暮らしていた。人々はそこを『エリアール』と呼んだ。荒れ地を意味する言葉だった。そこがヨハネの故郷だった。
ヨハネは北に霞んで見える山々を眺めて、遠い故郷を想った。




