第21話 火傷のニコラス
ヨハネは、解体した材木の運搬をもう一人の人足と対になって行った。ヨハネは何度も材木の間に指を挟み、古い釘に手のひらを刺し貫かれた。血と埃にまみれながら、それでも彼は働き続けた。
ヨハネと作業をしている人足は中年の大男で、作業に慣れているのか、ケガをした様子もなかった。その男が来ているシャツの襟は垢で赤茶色に変色していた。そしてその胸元からは大きな火傷の跡が見え隠れした。その男はヨハネを見ながらにっこり笑ってガラガラ声で言った。
「おまえ、ドジだな。ケガばっかりしてるじゃねえか」
そしてヨハネの顔と体つきをじろじろ見ながら底響きのする声で尋ねた。
「おまえ、ワクワクか?」
「いいえ、違います」
ヨハネは戸惑いながら答えた。
その大男はさらに問い詰めた。
「そうだよなあ。青い目してるからなあ。でもワクワクの血が混じってるだろ。そうだろ。体つき見ればわかるんだよ」
「さあ、どうでしょう」
ヨハネは誤魔化した。
「隠さねえでもいいんだよ。市参事会の人足なんて貧乏くじ引かされるやつはたいていワクワクの血が入ったやつさ。上はわかって選んでんだ。それによう、俺もよう、ばあさんがワクワクなんだわ。混血よ。おまえもそうだろ」
そう言ってその大男は満面の笑みを浮かべた。
ヨハネはワクワクの出自をここまで明るく話す人間に始めて会った。そして、少し間をおいて答えた。
「……北の山向こうにある村の出です」
「やっぱそうか! おれのばあさんもよう、北の山を越えた砂の村から売られてきたんだわ。もしかしたら俺たち親戚かもしれねえぜ」
そう言うと、目を大きく見開いて口をすぼめて突き出した。彼の左頬にある大きなほくろからは、長い毛が生えていた。それが風になびいてミミズのように動いた。ヨハネはつい噴き出して笑って答えた。
「そうかもしれない」
「おれはニコラス。火傷のニコラスなんて呼ぶやつもいるな。お前さんの名前は?」
「ヨハネ。アギラ商会のヨハネです」
その時、馬のいななく声が聞こえた。市参事会の世話人が馬車で水とパンを持って来た。人足たちは声を上げて喜んだ。
馬車に積まれていたのは樽に詰められた清潔な水と、木箱に入れられた黒パンだった。みな馬車に群がると樽を割ってひしゃくで水を飲み、争って黒パンに手を伸ばした。土埃にまみれた人足たちが馬車に群がり飲み食いする姿は異様な光景だった。




