時間逆行による死宣告
歯車が稼働する大聖堂の最奥部の壁面には大きく左右に揺れる振り子が付いた時計。
その大時計の下に、まるで守護天使に見守られているかのようにローブを纏うエーデルが物静かに立ち、一歩前へ踏み出た雪斗と対峙している。
「喋らねぇのは構わねぇけどよ。そんな動きづらそうなモン着てて負けましたなんて、下らねぇ言い訳はするんじゃねぇぞ」
「……問題ない」
「へぇ、喋れんのかよ。つか、その声は女か?」
「戦いに性別も種族も関係ない。勝つか負けるか、戦場では常にそれだけが絶対法則。貴方は私に負ける」
独特な喋りかたをするエーデルに雪斗は指を慣らし、早く始めようか、と挑発的に笑う。
「始めましょう。私と貴方の戦争を――」
エーデルがローブを脱ぎ捨てた。
「この聖堂は私の祈りを届けてくれる。この歯車は私を生かす贄となった同胞の魂」
「そうかよ……んなのに興味はねぇし、関係ねぇなァ!」
拳を握り床を力強く蹴り、エーデルと距離を詰め先手の一撃を叩き込もうとするが、エーデルは長く伸びた白髪から覗く色素の薄い灰色の瞳は雪斗をただ映すだけで、視認してはいなかった。
「私は願った。私は祈った。私は狂おしい程に切望した。機械仕掛けの異形神よ、第七の扉を開け放て――祀られぬ禍ツ異形本の項」
「――なにッ!?」
雪斗は全身の毛が逆立つ狂気に足がもつれ、態勢を崩し転びそうになるのをなんとか堪える。だが、目の前に――そう、雪斗を冷たい瞳が静かに死を伝授するかのように見下ろしていた。
「恐怖は死を求める」
「はぁ?」
世界が歪む。
意識が混濁する。
自分の身体がカメラの連写機能を使ったかのように一秒おきに残影を残しながら、足をもつれさせる前の状態に回帰し、ゆっくりと後ろに向かっていく。
「これは……」
雪斗とエーデルが対峙したその場まで引き戻された。
だが、違う点は一つ。
態勢を崩した状態から対峙する間に数十以上の雪斗が静止していた。
「これは、貴方。そう、この後起こる貴方の未来像」
エーデルの言っている意味が分からない。
「何言って……おい、何しやがるッ!!」
エーデルは足をもつれ始めた雪斗の首にナイフを押し当て、何の躊躇いも見せずに引く。
すると、それ以降――態勢を崩しゆく雪斗全員の首筋に赤い線が引かれる。
そこで、彼女の能力を理解する。
その能力は対象をコンマ一秒単位での質量を持った未来の姿を置き、時間を回帰させる。そして、質量を持った未来の対象に危害を加えれば、それは、必ず訪れる未来の出来事となるのだ。
「悪趣味すぎだろ……」
「そう? でも、どうでもいい。私は貴方の未来を自由に書き換えられる。そろそろ、時間を戻す」
雪斗は必死に抗おうと身体に力を込めるが、自分の意志関係なく握り拳を作り床を蹴り、残影をまったく同じ動きをとってしまう。
こんばんは、上月です(*'▽')
エーデルの能力は質量を持った対象の残影を置いていく時間逆行。
対象の未来に干渉し描くコトで成す未来創造。自分が死ぬ瞬間が徐々に迫る恐怖を与える悪趣味な能力だが、雪斗はその確定した未来を覆すことが出来るのだろうか!?
能力説明の文章が個人的に少々不満があるので、時間があるときにゆっくりと分かりやすく書き直せればと思います。
次回の投稿は今週中を予定しています