暴虐な巨腕と獣の恩恵を受けた腕
旧世界の能力を使役する魔王の力は雪斗の能力をはるかに凌駕していた。
それは、努力や経験といったものでは埋められぬ差に奥歯を強く噛みしめる。それでも、なんとかして一矢報いてやろうと、クルトの背後に控える巨腕から繰り出される殴打を紙一重で交わす――いや、交わせるように単調な動きをしていた。
「クルトッ! テメェ、手ぇ抜いてんじゃねぇぞ!!」
「おや? バレたか。ははは、でも手を抜かないとキミの実力が追い付けないだろう? それじゃあ、たんなる弱い者いじめだ。違うか?」
「……チッ、いまにその高慢な考えと余裕舐め腐ったそのツラをどん底に落としてやらぁ!」
雪斗の両の腕に宿る魔性の獣の意志。
黒き獣の恩恵を受けた腕は、相手の生命力そのものを根こそぎ削り奪う死神の牙。
白き獣の恩恵を受けた腕は、魔力の流れや形そのものを瓦解させる、神秘性を否定する牙。
力任せに振るわれる巨大な腕を白き獣の拳で殴りつけ、巨腕を形成している魔力そのものの形を乱し消失させようと試みるが、膨大な魔力を圧縮させて作られたその腕を消失させるには至らず、微々たるノイズを一瞬生じさせるだけだった。
「どんだけ、魔力を濃縮させてやがるんだよ!」
「ふふふ、雪斗、キミがこの腕を壊しきるには一体、どれくらいの時間と労力がかかるんだろうね」
「知るかよ。消えるまで殴り続けるだけだ!」
「単純思考だな。だけど、その考え俺は嫌いじゃないぞ。だったら、思う存分やってみろ」
言われるまでもない。雪斗は魔力の流れを白き獣の恩恵を受けた右腕に集中させ、少しでも効果的なダメージを与えてやろうと、拳を再度強く握りなおす。
クルトは絶対的な力の前に怯むことなく、果敢に立ち向かう姿勢を見せる雪斗が心底愛らしくて仕方がなかった。
最初は少し訓練を付けてあげるだけのつもりだったが、今ではそんなことよりも、目の前の小さな人間がどれくらい抗い、自分の予想を裏切ってくれるのか、と胸の意奥深い場所に期待の芽が息吹いていた。
「雪斗、俺の高慢な考えと余裕の顔をどん底に落としてくれるんだろう? 早く見せてくれよ。正直、そんなことはあり得ないと思っている反面、もしかしたらって期待しているんだからさ」
アルベールの抱いた人間への期待と愛とは違うかもしれない。だが、クルトも人間への期待と愛を見出し始めていた。
それを最初に芽吹かせるきっかけをくれたのは、あの娘だった。
人魔平等という夢物語を実現させてしまった少女。
クルトは懐かしきあの時代に口元が少し緩んだ。
こんばんは、上月です(*'▽')
だいぶ投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次回の投稿はGW明けになります。