星の瞬きに終わる戦闘
全ては星の導きに委ね。
あっという間だった。
宇宙に煌く星々が感じてる時間という概念は刹那の瞬きに過ぎないのだろう。凍てついた薔薇や醜悪な像も、時間という絶対性を有する法則を押し付けられ、劣化を通り越して存在そのものが消失していた。
「ああ……ああ、美しい――」
一人恍惚とした表情を浮かべ、すでに戦意を感じさせない非常識はただただ、地上に降り注ぐ星明りを全身に受けている。自分がいま、戦いの最中にいたことすら忘れて……。
「……えいッ!」
その気持ち悪い程に笑みを浮かべるラインの背後から、近場に落ちていた石で一切の加減をすることなく後頭部を殴りつけた。
「あぁん……」
打ち所が良かったのだろうか。ラインは抵抗を見せることなく意識は闇に落とされる。
「すっごく気持ち悪いですわよ。まぁ、私の勝ちだからどうでもいいですけどね」
眼鏡の奥から覗く冷ややかな視線をうつ伏せに倒れている男に落とし、勝利の余韻を噛みしめながら平然と、この結果は当然のことであるという喜びの感情を押し殺して仲間の下に歩んでいく。
「怜央、おめでとう。良かったね、勝てて」
「ふん、私があんな変態に負けるわけがないでしょう?」
「やったわね、怜央」
「睦月もおめでとう。琴人に勝ったんでしょ?」
祝いの言葉を返されて可笑しそうに笑う睦月に、怜央もふぅ、と気が抜けてクスリと口元を綻ばせる。
「怜央ちゃん! すげぇ! 星、あれ星だろう!? グルグル回って――」
「顔面底辺が顔を近づけないでくれるかしら? それと、興奮しすげて何言ってるか分からないから一度落ち着きなさいよ!」
鼻を大きくヒクつかせながらも深呼吸で気持ちを落ち着かせる。
「怜央ちゃん、おめでとー! 俺達の勝ち星がまた増えて良かったぜ!」
「だけど、油断はならねぇだろ? まだ、あの武人のおっさんとクルト、そしてもう一人残ってんだからよ」
次第に相手も強くなっている。
こちら側の残りは悠理と雪斗のみとなり、ヘルトは悠理が相手をするのであれば、雪斗は今回同様に素性も人間性も分からない存在が相手となる。
「やぁ、まさかラインがこんなにあっけないとは思わなかったよ。ま、行く旅の戦闘で彼も相当の力を疲弊させてはいるけど――ここまでとはね」
「あっ……クルト」
気付けば、周囲の世界は本来の居場所――雑居ビルの一室に戻っていて、絹糸のように繊細で美しい髪を揺らす両目を閉じた女性が扉に背を預けていた。
「まずは、怜央ちゃんおめでとう。さて、次回の戦いは明後日くらいにしようと思うけど予定は空いてるかな?」
「世界の命運が掛かってるってのに、予定もなにもねぇだろうが」
「雪斗君は準備万端って事でいいのかな? 次の相手はヘルトとほぼ同等の力を持っているから、そのつもりでね」
瞳は閉じられてはいるが、その双眸は雪斗の内面を舐めまわしているかのような錯覚を覚えた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は4月24日を予定しております。
今日の夕方から夜くらいに『夕日色に染まる世界に抱かれて』を投稿します