腐り歪んだ思考の持ち主
目の前の男の態度と発言に蛍とカルディナールを除く全員の神経を逆なでさせていた。
「おやぁ? いかがなさったのですかな。何か仰ったらどうです? 怜央さん」
ニタァと笑った。そう表現した方が的確だろう。男は一見して几帳面で神経質そうな顔つきをしているが、その眼鏡の奥から覗かせる瞳はネットリとしており、目に映るモノ全てが観察対象である、というような視線で怜央のつま先から頭頂部までを執拗に弄るようにねめまわす。
「と、特に貴方に対して言うことはないわよ! 明日の戦いでは精々必死に抗うことね」
その表情は身の危険を感じているかのように強張り、小さく震えていた。いつもの他者を見下した物言いだけが今の怜央を必死に支えていた。
「おやおや、そんなに震えながら気丈に振る舞うその姿勢……うふふ、私は好きですよ。実に好感が持てますよ。ああ、早くその強気な顔立ちを絶望に染め上げて差し上げたいですね」
口元を大きく歪めては恍惚とした吐息交じりに眼鏡のフレームを指で押し上げる。
「き、気持ち悪いですね! その腐った思考もろとも叩き潰してあげますから、楽しみにしておくんですね!」
「ええ、ええ! もちろんですよ。希望から絶望に切り替わるその刹那の瞬間にこそ、私は人間に興味を抱けるんですよ。特に可愛らしく強気な少女であればなおさらですね」
狂人だ。
性格が破綻しているなんてものではない。そもそも、目の前の男は世界の命運なんてものははなから眼中にないように思えてならない。
行動理念は己の快楽的探求のみ。
カルディナールが先程言っていた意味が分かり、反吐が出そうなほどの虫唾を無理やりに飲み干す。
「ふん! 確かに貴方はどっかの爆発主義の戦闘狂人より頭の思考回路がイッてますね」
「ああ、ムーティヒ君ですか? 彼は純粋に馬鹿なんですよね。人間の輝きを味わわずに爆散させるなんて……愚ろかしいにも程がありますよね」
ラインは壁に掛けてある時計を一瞥して、名残惜しそうな声音で告げる。
「もう少し会話に興じていたかったのですがね、残念です。明日の貴女の恐怖に歪んだ顔色を思い描きつつ明日を楽しみにさせていただきましょう。さぁ、私もこれでも多忙でしてね。ふふ、今日の所はもうお帰りになられて構いませんよ」
「ええ、言われなくても帰るわよ」
「それでは、明日。私の戦場でお会いしましょう」
退室する少年少女達に対して能面のような貼り付いた笑顔で小さく手を振り見送るが、誰一人として振り返ることなく扉は閉じられた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回はラインと怜央の戦闘となりますので、楽しみにしていてください!
次の投稿日は4月13日を予定しております