謎多き非常識
人気の無い路地裏から修道女姿のカルディナールに促されては、古びた雑居ビルの裏戸から建物内に入る。
かつて倉庫だったのだろうか。埃を被った簡易棚が並び、所々にダンボールが置かれていた。
「では、此方になりますのでついて来て下さいね」
最後に入って来たカルディナールは少々困惑する少年小女たちにクスリと優しい微笑みを浮かべて見せ、先導するべく先頭を歩きだす。蛍達は互いに顔を見合わせ、ここまで来たのだから付いて行くしかない、と頷き合っては渋々と付いて行く。
「どうして、今回はこんな雑居ビルに呼ばれたのかしら? いつもの協会ではなく」
「ええ、明日に怜央さんが戦う相手の意向ですので、どうかご容赦ください。今日は顔合わせだけとなります」
「別に構わないわ。それで、確か残りの雑兵はヘルト・パラディース、ライン・ニヒツ、エーデル・ヴィンターの三人だったかしら?」
ヘルトは何だかんだで会う機会があったからその人物のおおよその性格は把握していたが、ラインとエーデルの二名に至っては自己紹介時以降顔を見ていない。
「怜央さんが戦われるのはライン・ニヒツという方ですので……」
カルディナールの表情と声に僅かだが翳りのようなモノが滲んでいた。
「カルディナール、そのラインって人はどんな人なの?」
蛍の問い掛けに、首を横に振るう。
「正直詳しくは分かりません。ですが、凶暴性……いえ、内に秘めた嗜虐性はムーティヒ以上に危険で、冷徹な方というコトくらいしか……」
「ふん! そんなの関係ないわ。相手が誰であろうとも容赦する気もありませんし、負ける気もありませんわよ。カルディナールさん、余計な心配は無用ですので」
ツンと言い放つ怜央の言葉には絶対の自信と己の吐いた言葉を確実に遂行するという強い意思が秘められていて、カルディナールは翳りと払拭しきれてはいないが、わかりました、と頷き、エレベーターの最上階ボタンを押す。
ボロく狭いエレベーターはこのまま落ちてしまうのではないか、という不穏な音と揺れを引き起こしながら搭乗者を指定された階層まで運び、立て付けの悪い扉のように引っかかりながらそのドアがスライドし開く。
目の前にはかつては社長室だったのか、黒塗りの高級感を漂わせる両開きの扉が出迎える。
「今回の相手の性格がだいたい掴めたわ」
「あぁ? こんなんで分かるのかよ」
「不良の貴方には一生分からないでしょうね」
「……言ってろ、優等生」
カルディナールは二度ノックを鳴らして、まるで社長秘書のように恭しく扉を開き、客人を部屋に招き入れる。
「ラインさん、連れてきました」
社長椅子な背面をゆっくりと回転させ、怜央が明日戦う人物が姿を見せた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は4月11日となります!