非常識と常識は焼肉を食らう
繁華街にあるとある焼き肉屋にて、お互い正反対といってもいい身なりの二人が卓上いっぱいに肉の皿を所狭しと並べ、空き皿を積み重ねていた。
「オラオラァ! どんどん焼けていってんだから食えやァ!!」
ムーティヒの素早いトング捌きで肉をひっくり返しては、自分と蛍の取り皿に肉を盛っていく。
「完璧な焼き加減だね」
「当然だろうがァ! 普段から肉を焼いてるんだ、焼き加減とかは熟知してるんだよォ!」
ムーティヒが普段焼いている肉は牛や豚ではなく、戦場で己に牙を剥く人間だということを蛍は知っていたが、あえてそこには触れずにモグモグと口を動かしていく。
「そういえば、睦月と琴人の戦いってどうなったの?」
昨夜、二人が戦っているということを知ってはいたが、女同士の会話もあるということで、誰も観戦することが出来ず、その後どうなったのかは分からない。
もちろん今朝メールを送ろうとしたが、もし疲れて寝ているところを起こしたら可哀そうだ、と一切の連絡を入れていない。
「あァ……金髪の嬢ちゃんが勝ったみてェだぞ。ははは、琴人もまだまだだなァ」
「ムーティヒも俊哉に負けたよね?」
「ほっとけ! そんで、次はだれが戦うんだよ。言っとくがなァ、次戦う奴は一切の加減何てしねぇからな。ありゃ、ヘルト以上に冷酷だわ」
「そんな、怖い人なの?」
「怖いっていうか……他人そのものを軽んじてるな。気に食わねェクソ野郎だ!」
蛍は「ふーん」と興味無さげに生返事をして追加された肉をレモン汁に付け頬張る。
「その人ってどんな能力を使うの?」
「そこまでは教えられねぇなァ、フェアじゃねーだろ?」
「それも、そうだね」
意外と続く会話にムーティヒは内心で驚いていた。
「オメェはあれだなァ! 俺のカンだがな、オメェは何かとんでもねェことをやらかすんじゃねぇかって思えてくるんだわ」
「別に僕はとんでもないことをするきはないけど?」
「俺のカンだって言っただろ。それより、能力は覚醒したのかァ? 早く体得して慣らしておかねェと、いざって時に役に立たねぇぞ?」
「能力はたぶん大丈夫」
「へェ~、そいつは楽しみだ」
ムーティヒの目付きが変わる。
獲物が成長し、狩りがいのある標的に成長してくれた喜びを爛々とその瞳が猛っていた。
「クルトにこの獲物を奪われるのは癪だなァ! どうだ、これから俺と殺り合わねぇかァ?」
「う~ん、遠慮しとくよ。ここで手の内をさらけ出すのは良くないと思う」
「だろうなァ、ひゃは、いいねェ! 楽しくなってきやがった。いいか、ガキ。クルトに負けんなよ。もし、クルトに勝ったら次は俺だ」
「……考えとく」
他愛ない会話を実らせ、時間の経過を忘れてしまうほどまでに楽しいと感じた二人は、ムーティヒの全額奢りで店を後にして、駅まで蛍を見送り別れる。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は4月7日を予定しておりますので、是非とも一読くださいませ!