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意外な組み合わせでの昼食

 蛍はこの日、特に予定もなくぶらりと外出していた。


 近代化していく都心のビル群の合間を一人、トボトボと目的もなく歩く。


「俊哉と雪斗を誘えばよかったかな……」


 なんてことを一人呟く。


 携帯の時間を確認すればまだ十時過ぎ程度で、肌からはじんわりと汗が浮かぶ。


「……うん」


 路地の日陰で休憩がてらに自販機で冷たいペットボルの紅茶を購入し、火照った身体にほのかに甘い飲料水を流し込み、至福の吐息が自然ともれる。


 世界の命運を賭けたゲームなんて行われなければ、自分はどのように過ごしていただろう。


 ただただいつも通り、色の無い街や人々に揉まれながら退屈な人生を送っていたかもしれない。それはそれで良かったのかもしれない。


 だけど、いまは違う。この色の無い街で出会った仲間達。そして敵であっても自分と交流を持った非常識達かれら。その全てが自分を少しだけ変えた。


「僕は――」


 そんな最も大切な友人たちの為にも自分は……。


「死ぬのかな」


 言葉にしてから酷く後悔した。


 普段感情を語らぬ瞳に、寂しいという色が僅かに揺らぎ泳ぐ。


「…………」


 そもそも、どうしてこのような事を考えてしまったのだろう。いま、蛍がいる場所は以前に睦月と出かけた時に立ち寄った占い屋の近くだからだろうか。


 店自体がすでに存在していないので、例の占い師に詳しく話を聞くことも出来ない。


「深く考え込むなんて、僕には似合わない」


 残った飲料水を一気に煽り、少しでも早くこの鬱々とした気分を払拭させるべく真夏の日差しを一身に浴びる。


「おい、ガキ。こんな所で何やってんだァ?」


 路地から出た所で背後から声が掛かる。


「うん? あっ、ムーティヒ・イェーガー」

「あァ? なんでフルネームで呼ぶんだ?」

「なんでだろう?」


 疑問に首を傾げて返すと、ムーティヒは頭を掻きながら、蛍の隣りに並び歩き始めた。


「んで、今日はいつもの仲良しごっこしてる仲間は一緒じゃあねーのかァ?」

「うん、今日は僕一人だよ。なんとなくやることもなかったから散歩してるだけ。ムーティヒは?」

「俺ァ、もう戦いに敗北してっからよォ、やることがねェんだ。オメェと一緒ってわけだ」 


 蛍はコクリと首肯する。


「そっか……」

「ああ……」

「…………」

「…………」


 会話が続かず沈黙が訪れる。


「なんか、喋れよ……」

「何をしゃべればいいの?」

「んなもん、自分で考えろ」

「……好きな食べ物はなに?」

「はァ!? いやいや、おい待て。流石にそんなベタ過ぎる会話はねェだろうが!」


 素っ頓狂な声で蛍のボケか真面目なのか、質問にツッコミを入れると、首を傾げてムーティヒを見上げる。


「自分で考えたよ」

「あー、はいはい。分かった。もうそれでいい。そうだなァ、やっぱり肉だろ。肉食わねェと力になんねーからなァ。そういう、オメェは何が好きなんだ?」

「僕は何でも好きだよ……あっ、でも一番好きなのはハンバーグかな」

「結局は肉ってことだなァ! うし、昼は奢ってやっからよォ、肉食いに行くぞ」

「奢ってくれるの?」

「せっかく出会って、少し会話して別れるなんて、つまらねぇだろうが」

「そうだね」


 まさか、非常識の一員であるムーティヒから昼食に誘われると思いもせずに、言われるがままに繁華街に進路変更し昼食を求める。 

こんにちは、上月です(*'▽')


次回の投稿は4月4日を予定しておりますので、ぜひともよろしくお願いします!

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