クルトへの伝言
「あ~、冷たいっ!」
睦月は池から這い出ては身を震えさせる。いくら、真夏といえど流石に冷水に飛び込み数分浸かっていれば身体は冷えきってしまうのは必然。
小さなくしゃみを数回、衣服が吸った水を絞り出す。
「ははは、ちょっと無茶しすぎたかな」
「うん、ちょっとどころじゃなくて、凄く無茶苦茶だった……」
「だよね。でも、あそこで行動してなかったら私は負けてたし、仕方ないよ」
あの場でじっとしていれば、今頃は脱水症状でどうなっていたか。琴人のことだから、命までは奪わないとは思うが、それでも睦月は負けたくなかった。だから、無茶なやり方であっても勝利を見据え、賭けを仕掛けたのだ。
「はいこれ! このままだと風邪ひいちゃうよ」
琴人はベンチに置いてあるカバンからタオルを取り出し睦月に手渡す。
「ありがと、それと、確認なんだけど――私の勝ちでいいの?」
「うん、睦月が逃げ場を見つけちゃった時点で私に勝ちはないから。でも、蛍君のことはまだ負けを認めるわけじゃないからね!」
「そうこなくっちゃね。私と琴人はライバルなんだから、あっさり引かれると覚悟を疑うよ」
タオルで全身の水分を拭き取り、タオルは洗って返すと苦笑交じりに告げ、同じくベンチに置いてある小さな髑髏の装飾で飾り付けられたポーチにしまう。
「睦月は蛍君のどこに惹かれたの?」
琴人の唐突な質問に睦月は一度、夜空を仰ぎ見てクスリと笑みをもらす。
「う~ん、最初はなんとなく放っておけない子だなぁってだけだったんだけど。共に過ごすうちに彼の魅力みたいなものが見えてきて、気付いたら……ね」
「そうなんだよねっ!」
琴人もまったくの同感だった。
気づけば、彼のどことなく漂わせる魅力に魅せられているのだ。
だが、久しく会った蛍は琴人の知る彼とは少しだけ雰囲気が変わっていた。それは、よく観察しなきゃ分からない程度の僅かばかりの変化。
「睦月、もう一度言うね。私は蛍君を諦めないから!」
「こっちこそ、諦めるつもりはないよ」
真夜中の公園で二人の少女は敵同士でありながらも、好敵手という友情が芽吹き始める。
「取り敢えず、クルトさんには私の負けって報告しておくね」
「うん、お願い。それと、クルトに伝言があるんだけど、頼んでもいい?」
「うん、いいよ」
睦月の言葉に琴人の瞳は大きく見開かれる。
「本当に……?」
「うん、私だけで考えても分からないから。クルトなら何か知ってるかなって」
「じゃあ、伝えておくね。時間も遅いから気を付けて帰ってね」
「ふふ、私を襲おうなんて命知らずには冷たい鎖の洗礼を受けてもらうわ」
琴人と別れを告げて公園を後にする。
こんばんは、上月です(*'▽')
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