睦月と琴人、互いにぶつかり合うための想い
心許ない外灯と自然に囲まれた公園で対峙する二人の少女が対峙しているなかで、それは、唐突に起こった。
「何が起こったの!?」
睦月が展開した数十本の鎖は縦横無尽に鞭のようにしなっては木々を抉り倒し、大地は爆撃機の攻撃を受けたように爆ぜ、土塊は弾丸のように周囲にばらまかれていた。
だが、その暴虐な鉄塊の連結は突然として動きが鈍くなり、軋み音を上げてはその全てが力なく地面に横たわる。
「錆びてる、どうして……?」
全体が黒い鎖は見るも無残に赤錆に汚染され風化し、使役者である睦月は困惑の色を浮かべ、使い物にならない鎖を瓦解させ、新たな鎖を展開させる。
「睦月さんでは私と相性が……その、悪いです」
睦月の鎖を赤錆だらけの鉄塊に変えた少女が遠慮がちな小さい声で告げる。
「それが、琴人さんの能力なの? でもさ、相性が悪いなら、それを上回る力でねじ伏せるだけだよっ!」
睦月の背後でウネり、荒れ狂う触手のような鎖は、主人の合図をもって一斉に琴人へと襲い掛かる。
「睦月さんには、恋もこの戦いも負けたくないです!」
「私だって、負けたくない!! 蛍も世界も渡さないから!」
迫りくる鎖に手を突き出す。
いったい、少女の細腕で何をしようというのか。睦月はそれを見極めるべく意識をその手に注ぎ見ていると、睦月の頬を何かがそよいだ。
「……風? でも、この匂い」
勢い任せの鎖はやはり次々と赤錆が生じ、気弱そうな少女に届くことなく地面に落下する。
先程から、この繰り返しだった。
睦月が攻撃し琴人が防衛する。その攻防をかれこれ十分以上続けている。睦月が危害を加えようとしなければ琴人もまた何もしない。
「ねぇ、どうして琴人さんは攻撃してこないの?」
「どうしてって……それは……」
言葉を選ぶように視線を左右に泳がせ、結局言葉が見つからずに沈黙してしまう。
「私に恋も戦いも勝ちたいんだよね? なら、どうして攻撃しないの? それが、貴女の策なら私は何も言わないけどさ。そんな守るだけの戦いじゃ何も勝ち取ることは出来ないよ」
「わかってます……そんなの、分かってます」
他人を傷つけるのが怖い。戦わなければいけないのは分かっている。理解はしているつもりだった。それでも心のどこかで反発していて、防戦に徹してしまっている。
周囲にはお互いの仲間達はいない。
「せっかく、女二人だけなんだから、誰彼に遠慮することないんだよ? ありのままの貴女を私に見せてよ」
「……ありのままの私?」
「そう、素直な本当の気持ちをこの戦いで語り合おうよ、お互いにさ」
睦月はらしくないかな、と金髪を手で乱雑に掻き照れを隠す。
「睦月さん……」
同じ男性を好きになってしまった。だから、今回の戦いは非常識や人間といった枠組みをかなぐり捨てて、互いに一人の女としての想いをぶつけ合うというので、余計な観戦者を付けなかったのだ。
真っ直ぐに攻め立てる睦月に対して、琴人は自分の想いを謳うことなく、殻に閉じこもっているかのように守り続けるだけだった。
「大丈夫だよ。私と琴人さんは恋のライバルだから! だったらさ、悔いのないように全力でぶつかり合おうよ」
「……うん、やってみる」
「うん、そのいきだよ」
「あの、睦月さん」
「うん?」
「私の事は呼び捨てにしてほしいです」
これは、琴人なりの誠意なのか。これからぶつかりあうのに他人行儀なんてのは邪魔以外のなにものでもないというのか。その提案を聞いた睦月は嬉しそうに微笑む。
「わかったよ、琴人。じゃあ、私も睦月って呼んで」
「うん! いくよ、睦月!」
内包する魔力を放出し、互いに引き出せる限界まで絞り出す。
こんばんは、上月です(*'▽')
前回の投稿からだいぶ経ってしまいましたね(;'∀')
次回は睦月と琴人の戦いの続きですので、お楽しみに!
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