各々が抱く、言いしれぬ不安の対象
五つの玉が各自意思を持ち、目で追うことが出来ない速度で悠理に迫るが、それをゆうゆうと躱して笑うその姿を睦月達は最早次元の違う戦いに愕然としていた。
それも、未だにお互い能力を行使していないのだ。いったい、互いが全力でぶつかり合うとどうなるのか……。
「悠理……いや、リリアンだっけか? あいつを見てると妙な胸騒ぎがするぜ」
「えっ、そうか? 俺的にはクルトのほうが見てて背筋に冷たいものを感じるけどな」
二人の戦いに各々の感じるところがあるようで、鈍感な蛍でさえなにやら難しい顔をしていた。
「蛍、どうしたの? やっぱり、あの二人から何か感じる?」
「う~ん、どうだろう」
蛍の中でナニか得体の知れないモヤモヤとした正体の説明がつかず、それは胸中の奥底に根付きいている。そのナニかについて考えれば考えるほどにじれったさが増していき、正直なところ戦いに集中できる状態ではなかった。
「そういう睦月、貴女はどちらに対して何を感じているの?」
「私? そうだね。私はどちらかと言えばリリアンに言いしれない不安感はあるかな。怜央は?」
「私は、どちらでもないわね。私が気になるのは――」
怜央は視線だけを動かし、蛍にその観察するような見極めるような色を宿した瞳を向けた。
「……蛍?」
睦月は、声量を落とし隣に並ぶ怜央にだけ聞こえる様に囁くと、怜央は微かに首を縦に振る。
「ええ、あの二人の全力はきっと私達の次元を遥かに超越したものだってのは分かるわ。でも、彼からは、超越の先に際限がない……って言えばいいのかしら? 行き止まりが無い、延々と続く穴のようなものを見ている気にさせられて、心がざわつくのよ」
「超越の先……」
睦月の脳裏を不意にいつぞやの占い師の言葉がよぎる。
『虚無……救済……達成……自壊』
『全てを内包する世界に裏切られ、その魂は高次元的閉鎖空間の果てへと辿り着く』
『これは、何者かの意思によって確約された運命』
睦月はこの言葉を脳裏で反芻し、その意味を自分が得た知識とクルトの語った過去を絡ませ吟味する。きっと、何かあるはずだと、脳をフル稼働させて些細なことも見落とさないように思考する。
その間も二人の戦いはより一層激しく盛り、殺意と殺意、斬撃と球撃。
――そして、未来は描かれた。
クルトは玉遊びに踊るリリアンのお陰で、思い描く未来を創り出すことに成功する。
以前より構成速度は愕然と劣るが、それでもほんの数分あれば翌日分までの道筋を描くことが出来た。
「リリアン、お前の負けだよ。俺は未来を描いた」
「ふふ、なら試してみましょうよぉ。貴女の未来が的中するかどうか……ね」
世界法則のロジックを歪めた未来は、精巧な歯車を軋ませて世界は動き出した。
こんばんは、上月です(*'▽')
とうとう、クルトの未来創造により、世界は強制的な分岐点を幾重にも選ばされ、不条理の改変を歩み始める……。
次回の投稿は3月3日の夜に投稿しますので、是非とも一読くださいませ!