未来創造の魔王
寂れた教会の外では悠理の身体を借りているリリアンとクルトが向き合っていた。
「観客がいないと寂しいわぁ」
「中にいる彼らを呼んできてもいいけど、お前が無様に地を舐めるその姿を見せたいか?」
「あら? どうかしらね。地に伏せるのは貴女かもしれないわよぉ」
「それは、俺に血を舐めさせることが出来る秘策があるってことか?」
「ふふふ、それは……お楽しみ」
クルトは使い慣れていて、そしてリリアンをかつて地に這わせさせた因果創神器である五つの玉を宙に放ると、それはユラユラと落下する事無く浮いていた。
「懐かしいわねぇ、あの時はとても屈辱的だったわ……忌々しい玉よねぇ」
大鎌を自分の身体の一部のように自在に振り回し、その刃に獲物であるクルトを映させては背筋の凍るような妖艶にして捕食者のような眼光と笑みを浮かべる。
「基本的に接近しなければ、お前のソレは俺に届かない。だが俺の因果創神器に距離感なんてない」
五つ――それぞれが、違う色をした玉がクルトの意志を汲み取ったかのようにゆっくりと、次第に速度を上げてリリアンに迫る。
「私の間合いに入る寸前に、不規則な動きに変わるんでしょ?」
大鎌の狩場である領域に玉が踏み込んだ瞬間に、五つの玉は互いに衝突し弾けて高速で不規則な動きを取り弾丸と化す。
「これらの効果は知っているだろう? さぁ、その秘策ってやつを早いところ見せてくれるか?」
「ふふ、焦っちゃだめよぉ。私達の宴は数百年……いや、忘れちゃったわ。一体どれくらい前の出来事だったかしらね」
「時間の流れを感じている暇が無かったが、多分、数百年程度じゃないか?」
始まりの世界と呼ばれる彼らの生きた楽園が滅びてから、今この瞬間まで過ぎた月日。
彼女たちに純粋な再開の喜びなんてない。あるのは、狂気と悲痛。
両者がその胸に抱く想いはぶつかり合う。
「ふふ――こんな、ものじゃないでしょ? あら、まったく当たらないわねぇ」
「……っく!」
リリアンは軽々と苦することなく、流れる様に迫る玉を回避していく。
「……どうしてだ?」
手を抜いているわけではない。むしろ早期決着をつけるべく、容赦なく責め立てているのに、その全てをまるで、未来が視えているかのように軽快にその全てを回避していく。
「未来は視えないわよ? 私はクルトじゃないものねぇ……あ、そういえばクルトは視るんじゃなくて創るの力だったわね。ふふふ、懐かしすぎて忘れてたわぁ」
クルトにはリリアンの今の発言が挑発に聞こえて致し方なかった。
そう、クルトは未来を想像するのだ――コンマ一秒も正確に思い描いた未来を訪れさせる。かつて、その力を用いて仲間であった魔王を一人、嗤いながら殺したのだ。
そして今、リリアンは未来創造の力を使ってこいと遠回しにはやし立てていた。
「そう……だな。せっかく、観客も見に来たことだし、俺の力を少し披露するとしようか」
気づけば、教会の外には蛍達が……今現在の仲間であるムーティヒ達が二人の戦いを遠巻きに観戦していた。
視てやろう――確定された未来を。
見せてあげるよ――絶対の預言者の異名を持つ、第二魔王の力を。
こんばんは、上月です(*'▽')
懐かしい二人の戦いです。
一応次回で決着がつけばいいなと思っております。
次回の投稿は3月1日の夜になります