ぶつかり合う旧世界の魔王たち
「もう一度だけ聞くぞ。リリアン、お前は今まで何をしていた?」
「ふふ、快楽に身を委ねてたわ。だってぇ、そっちの方が有意義な人生だと思わない? 馬鹿みたいに何度も何度も繰り返し戦って負け続けるより……ね。今の貴女は酷く希薄に見えるわよぉ」
挑発的な発言をクルトは大きなため息と共に聞き流す。
幾星霜というほどでもないが、クルトは己の存在をすり減らして幾度とクリスティアの魂を――その輝きを解き放ちたいという願いを支えに、これまで多くの世界を滅ぼし邪神に挑み続けていた。
だが、どうだろうか。
結果は何一つ好転せず多くの仲間達を失い、クルト自身の肉体と魂は限界を迎えている。
であれば、リリアンの言うように自由気ままに残りの時間を有意義に過ごし、死ぬときに死んだ方が賢明なのではないか、とさえ思ったことも幾度とあった。
「確かにお前の言う事も一理はある。だがな、リリアン。俺はあの誓いを守りたいんだよ。俺達、魔王と人間達で誓い合った約束をな」
「約束……ねえ。今もまだそんなモノに縛られている貴女を見ていると哀れで涙が出てくるわねぇ。昔の貴女はそんな約束なんて守るほど出来た人物では無かったとおもうけどぉ?」
「はは、かもしれないな。だが、俺は変わった。お前もみんなも……」
クルトは遠い時代を思い返すようにゆっくりと呟き、慈しむ聖母のように柔らかく微笑んだ。
「クリスティア・ロート・アルケティア、という何の力も持たない人間の少女によってな」
「バッサリと会話の流れを断って悪いんだけどぉ、今の貴女なら私でも殺せるんじゃないかしら?」
「…………」
「ふふ」
悠理もといリリアンは、まるで手品のように大鎌を空間から呼び出し、対面側に座るクルトにその妖艶な輝きを宿す、魔性の大鎌の切っ先をクルトに向け、残虐性と凶暴性と快楽の色が合わさった眼を爛々とさせていた。
「お前が望むなら相手をしてやる。以前のようにまた、地べたに這う姿を見せてもらおうか。取り敢えず、外に出ろよ。この部屋は彼の快気祝いの席だ。滅茶苦茶にされたら困る」
「ええ、いいわ。ふふふ、楽しみねぇ!」
「すまないが、キミ達は待っていてくれ。直ぐに終わらせてくるから」
クルトは完全に外野であった蛍達に笑顔を向ける。
「ねえ、悠理はどうなるの?」
蛍の問いにクルトは「大丈夫だよ」と言い残し、リリアンと共に部屋を出て行った。
「なぁなぁ、せっかくだし見学しにいかね? そうすりゃ、敵の大将の能力も分かって俺達の勝機が上がると思うんだよね! どう?」
俊哉の意見はもっともだ。
いまの自分たちはどんな手を使ってでもこの戦いに勝たなければならない。だが、あの二人の問題に他人である自分たちが、はたして首を突っ込んでいいものだろうか、と賛成の声を抑制していた。
おはようございます、上月です(*'▽')
次回はクルトとリリアンの戦いです。かつての力を存分に振るい戦えないクルトと、快楽に人を殺めて力を蓄えてきたリリアン。どのような戦いを見せてくれるのか!
次の投稿は2月27日の夜になります