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ハンバーグに仕込まれた甘美なる棘

 あの夜の出来事から三日過ぎてまたメンバー同士で集まることになったが、今回はいつもの3人に加え新たな仲間である宮城睦月を加えた4人での行動となる。

睦月を2人の前に連れてきたときは色々と質問攻めされたが睦月の一瞥により2人は押し黙った。


「初めまして……ではないね、私は宮城 睦月。その……同じ模様を持つ者同士、これから宜しく」


 2人も軽い挨拶を交え、本日の探索は中断し親睦会という事で近くのファミレスに入り昼食を摂る事にした。時間帯的に多少混んでいるがそれほど待つわけでもなさそうなので名前を記入して椅子に座り、順番を待つことにした。


 途中雪斗が金をおろしてくるといい抜けたりして15分くらいで店内に案内された。


 店内は人で溢れかえり、ホールのアルバイト達があちこちを急ぎ足で駆ける。


「俺はやっぱりリブステーキセットのライス大だな、男なら肉と米だろ! なぁ、お前らもそう思わね?」


 俊哉はメニューを開くことなく既に注文が決まっていた。毎回それ食べてるけど飽きないのかと思うが飽きないから食べているのだろうと結論に至り自分もメニューを広げる。


「じゃあ、俺もリブステーキのパンセットにしておくか。コイツの意見に賛同するのはムカツクけど肉は力になるしな」

「私はドリアとサラダでいいかな」

「僕はサラダとペペロンチーノでいい」


 各自注文を頼み食事が運ばれてくるまで適当な雑談をするが、やはりこういうのはクラスで転入生が質問攻めを受けるのと同じで新しく仲間に加わった睦月が俊哉から質問攻めにされていた。


「ねねねね、能力が覚醒したのっていつくらい? やっぱそんなことより好きな男性のタイプとか教えてもらちゃったりしてもいいかな」

「始まっちまったか、コイツの面倒くさい超質問攻め……俺の時は深に夜メールの嵐だったぜ。蛍、お前もそんな感じだったか?」

「僕の時は……ごめん、覚えてない」

「まぁ、今の一瞬の間は置いといて水でも取りに行くか」


 蛍と雪斗は全員分の水を取りにドリンクコーナーに向かおうとするが睦月の助けを求める視線を感じた気がしたが、気づかぬふりをしてドリンクコーナーに向かった。


 グラスに水を組んでいる時にふと雪斗が話しかけてきた。


「なぁ、お前は焦らねぇのか? 俺たち二人はまだ能力を覚醒させてないんだぞ。正直アイツに先越されたと思うとマジ自分が情けねぇ」

「別に急ぐ必要はないんじゃないかな? ゲームが開始されるのは6人揃ってからだから、それまでに覚醒すればいいと思う」


 蛍は二人分のグラスに水を汲み終わり、二つを雪斗に渡し睦月と俊哉の席に戻ると、俊哉は相変わらずのマシンガントーク……というより一方的に質問をぶつける形となり、睦月はただ疲れたような表情をしていた。


 昼食を済ませ本来であれば仲間の探索に出向くのだが今日は息抜きに1日使って遊んで疲れを吹き飛ばそうという企画になっていた。


「なぁなぁ! 飯食ったしどこ行く、カラオケ、ボーリング、ダーツ、ゲーセン、映画どこでもいいぜ俺は」

「俺も別にどこでもいいけど、お前らはどこか行きたいとことかないのか?」


 雪斗に促され蛍は先ほど自販機で購入した紅茶を煽りながら睦月に場所を決めてくれと目で訴えかけ、その視線に気付いた睦月は適当な所を数箇所立候補させるが、蛍は紅茶を飲むことに意識を完全に向けている為、俊哉と雪斗にその中から決めてもらうことにした。


 結局今日1日のプランとしては初めに映画を見てゲーセンに行きショッピングを楽しんだ後に夕食を済ませ解散といった学生らしい予定だった。


「なぁ、希望が無ければ最近始まったアクション映画観たいんだけどどうかな?」

「俺は別に恋愛みたいな甘ったるいものじゃなきゃ何でもいいぜ」

「私も恋愛よりかはアクションの方がいいかな」

「僕はなんでもいい」


 全員特に希望がなかったので俊哉の希望が通り、アクション映画を観ることとなった。それからの映画館に着くまでの道のりでの俊哉のテンションはいつも以上に高く、雪斗も睦月もウザったそうに俊哉の相手を昔からの付き合いが長い蛍に任せ、彼らの1歩後ろを歩く。


「なぁ、あの二人性格が全然違うけどよ、何であんなにいつも一緒にいるんだ?」

「いや、今日から仲間に加わった私に言われても知らないし」


 雪斗と睦月の目の前にはやたら蛍に親しげに映画の事を語りかける俊哉とそれに相槌を打ちながら二本目のペットボトル紅茶を口に運ぶ蛍の姿が視界に入る。


 確かにこの二人はどういう関係なのかと、ちょっとは疑問に持ちながらも映画館に向かった。


 映画館の席は4人固まって取ることができ、中央席の一番左から4つの席を確保し、座る順序は左通路側から蛍、睦月、雪斗、俊哉の順になり、その席順に俊哉はブーブー意見を言っていたが、皆聞く耳を持たず、予告が始まるまでの時間をトイレや土産屋などで時間を潰した。


「なぁ睦月、俺あれから考えたんだけどよ俊哉ってもしかして、男色家なんじゃねーか?」

「……だから、私は今日の彼等しか見てないから何とも言えないって」


 といい2人して未成年の身でありながらタバコを喫煙所でふかしながら雑談をしていた。


「そろそろ映画始まるよ」


 と言い先にタバコを灰皿に押し込み睦月は先に劇場内に戻って行き、残された雪斗も吸い途中のタバコを灰皿に捨て、後を追うように劇場に向かう。


 予告が始まり色々な作品が5分くらい流れやっと本編が始まった。


 雪斗が右に座る俊哉を見ると子供のような純粋に楽しそうな笑みを浮かべていたことに思わず笑いそうになるのを堪えスクリーンに眼を移す。


 その一方睦月は自分の左側に座る蛍を横目でみると、映画館限定のジュースをストローで吸いながら画面を見ているのか視界に写しているだけなのかわからないが一応映画を観ていた。


 確かにこの二人が一緒に普段行動を共にしているというのだから少々驚きだった。


 スクリーンの中では男が銃などで複数の敵を相手に激戦を繰り広げていた。


 多勢に無勢といった状況の中でも主人公の男は最後まで諦めることなく戦い、敵のボスの元までたどり着き1対1で戦っていた。剣や銃、挙げ句の果てには落ちている物すらも武器とし活用していた。先程までの激しい銃撃戦とは一変し今や頭脳戦と接近戦がメインとなり観客に飽きさせない戦闘アクションを繰り広げている。


 戦闘も終わり主人公が自分の国に帰るとそこには重火器で武装しこちらにそれらを向けた仲間たちが出迎え、指揮官とおぼしき男が発泡の合図をだすと仲間たちは主人公に向かい次々に発泡し、戦いから帰還した主人公を蜂の巣にしてしまうといった最期だった。


 正直胸糞悪い終わりに睦月と雪斗は軽く溜息をつき、雪斗の右に座る俊哉は大粒の涙を流していた。

逆に蛍は飲んでいた飲料の空容器を胸に抱きながらスヤスヤと眠っていて睦月はそんな彼に苦笑する。


 スタッフロールが流れ、映画が終わったのでスヤスヤと眠る蛍を起こす。


 彼は眠い眼を軽く擦りながら遠慮がちな小さな欠伸を1つし、映画面白かったねと感想を漏らしながら席を立ち皆でそのまま皆でトイレに向かった。


「俊哉お前ぇ、映画後半泣いてただろ」


 3人並んで小便器で用を足しながら雪斗が言葉を発した。


「べッ……べべ、別に泣いてなんかねーしぃ、ただ主人公が浮かばれないなと思っただけで別に感情移入とかしてないし!」

「あ〜今のでなんとなく分かったからもういいわ」

「久しぶりに僕も感動したよ」

「いやお前泣いてたんじゃ無くて、単に眠かっただけだろうが!」

「だろだろ、あの映画ちょっとだけ感動できるよな。俺もいつかあんな大人になりたいぜ」


 雪斗のツッコミを途中で遮り俊哉が一人で盛り上がっていた。


 土産物屋で各自欲しいものを模索していたが一人おかしいのがいた……そう俊哉だった。彼は買い物かごいっぱいに先程の映画のグッズを次々に放り込み会計レジに並んでいる。


 他の三人はキーホルダーなどを1つ2つ購入するだけだった。


 俊哉1人でグッズの総額は一万を超え、二人は呆れて何も言えなかったが蛍だけは、いい買い物したねと言葉を投げかけていた。


 などとちょっとズレたコントをして、それに俊哉は親指をグッドの形にしその表情はやりきった感を出し誇らしげだった。


 映画を堪能した三人が次に向かったのはこの街で一番大きく学生達で溢れかえるゲームセンターだった。映画館から徒歩3分という近さで、映画開始までの暇な時間は大抵の人がそこで時間を潰している。


「うっは〜やっぱ混んでるな、まず何やろうか誰か俺と格ゲーやんね?」

「じゃあ僕が」


 意外にも彼が1番に名乗りをあげ最近話題の格闘ゲームに座り、互いにコインを投入しキャラを選んだ。


 雪斗と睦月は正直俊哉が勝つのではないかと思っていたが蛍の高速で次々に難しいコマンドを入力し、俊哉は為すすべもなく一方的にボコられていた。


 いつ出来たのか彼の後ろには見物人がちらほらと現れ、挙句の果てには彼に対戦を挑む挑戦者も現れるが俊哉のときと同様に為すすべもなく完全勝利を収めていく。


 なかなかストーリーモードが進められない現状にうんざりしたのか代わりに雪斗を座らせ近くの自販機に飲み物を買いに行った。


 結構飲料飲むんだなと睦月が蛍を見ながら思っていると雪斗は完全敗北していた。


「睦月はなんかゲームやらないの?」


 唐突に俊哉から声をかけられ一瞬びっくりしたがいつもの覇気のない声で


「そうだね私は音ゲーでもやろうかな」


 睦月の目先には画面から伸びたコードをギターにつないだゲームがあった。


「なんなら俺と勝負しない?負けたら飲み物1本ということで」

「ふふ……いいねそれ、手加減しないから覚悟してね」


 二人はギターを担ぎリズムに合わせてタイミングよく弦をかき鳴らしお互いに最高ランクでやっていた。


 俊哉は殆どミスでもはや話しにならなかったが逆に睦月は全部最高得点を獲得し、高得点を連続で出していて、ここにも見物人で溢れ周囲からはおぉ〜なんて歓声があがった。


 ゲームは終わり睦月の点数はランキングダントツ一位で二位との差は埋められない壁となり、隣で俯く俊哉は静かにその一帯から姿を消した。


 二時間くらい各自でゲームを楽しみ大手のショッピングモールに向かいCDやら本を購入し大空も夕の色と夜の色が混じり始め街に立ち並ぶ街灯も仄かな明かりを灯した。


「そろそろ夕飯でも食うか」

「あっ俺凄くハンバーグ食いたい」

「私はなんでもいいけど」

「僕も特には」


 結局案を出した俊哉の意見に合わせハンバーグ屋にむかった。


 そこは店主自ら手でコネ焼いている本確定なお店で料金も学生に優しい価格で昼時に入ると1時間は待たなければ食べられない店として有名だ。


 そのハンバーグを1度手べればその味を忘れられなくなりまた足を運んでしまうと言わしめるほどの味らしく、噂ではそのハンバーグに中毒性の薬物でも混入されているんじゃないかと言われるほどで、まだ夕食時には少し早いが店内はそこそこ人が集まっている。


 独特なレトロ感を演出した装飾品が店内を飾り微かに流れるジャズがまた良い感じの味を出していた。

大体の客が中年世代の人たちで皆ゆったりとした空間に満足しながらハンバーグを口に運び、その瞳はどこか正気を失っているようにも見えた。


「おいおい、確かに俺はハンバーグが食べたいとは言ったけどさ、こんな目がイっちまってる客みてたら食う気なくすんだけど……」


 そこで運ばれてきたハンバーグが各自の目の前に置かれていく、見た目は普通の俵状ハンバーグだがここに人々を魅了させてしまう何かがあるのだろう。


「食べないの? なら、先に私食べてるから」


 と睦月は先にナイフでハンバーグを切りフォークに刺し口に運び咀嚼する、その様子をまじまじと見つめる俊哉と雪斗だったが特にこれといって何も起きず、安全が確認されたため二人も食べ始めた。


「おっ、うまい! 旨みが含まれてる肉汁が口の中で溢れてきてヤバイぜ」

「マジじゃねーか、こんな上手い物が安く食えるなんて信じらんねぇよ」


 二人はハンバーグとゴハンを交互に口に運んでいく。

 まさにハンアーグに魅せられた客どうように視点が宙を泳ぎ、会話も少なくなり食べることに勤しんでいた。


「ね……ねぇ、目がおかしい事になってるけど大丈夫なの?」


 様子のおかしい二人を見て流石に心配になったのか、睦月は2人に話しをかけるが声が聞こえていないかのように食べることを止めない。


「僕も食べてる時意識が他に向かない時があるから心配はいらないと思う」


 彼は普通のペースでハンバーグを胃に収めていく。


「でも、これって意識が向かないとかのレベルじゃないと思うけど……」

「ハハハ、ドウデスカ? トウテン自慢のハンバーグ、オキャクサン満足?」


 厨房の奥から出てきた黒人は顔面に笑顔を貼り付け彼等の元まで歩いてきた。


「ソノ、ハンバーグ皆好キヨ、マタ食ベタクナルヨ。ショウガナイ美味シイモン」


 片言の日本語をしゃべりながら怪しいハンバーグについて話していたが、俊哉と雪斗は食べることに必死で店員の話を聞いていなかった為彼と睦月が相手をすることとなった。


「このハンバーグいったい何が入っているんですか、これを食べてから2人の様子が変になったんですけど」


 話しを切り込む睦月に対し彼はゆっくりとハンバーグを食べ店員と睦月のやりとりを静観することにした。


「レシピ教エラレナイ ダッテ ミンナ真似スルデショ」


 進展しない睦月と店員の会話そして今も食べ続ける2人の仲間、このまま時間を消費してももはや埒が明かないのは明白といえるだろう。


「このハンバーグ、アカシオットハーブが使われてる」

「え?」

「ッ!?」


 瞬間店員の顔は引きつり完全に笑顔というマスクが剥がれ落ちていた。


「なに、そのアカシオットハーブって」


 睦月は何のことか分からないといったような表情だったが蛍はいつもの無表情に抑揚のない声で続けた。


「5年くらい前ニュースになった人を幸福感で満たす麻薬。それをハンバーグに混ぜることによって食べた人を幸せにして、その快感を味わうためにまたソレを食べに来るのかな」

「チッ……チガウヨ!? ワタシノミセ ソンナ麻薬ツカッテナイヨ」


 店員は身振り手振りで否定するがその慌てっぷりが逆に怪しさを引き立たせていた。


 睦月は急いで俊哉と雪斗の皿を叩き落とした。


「俺の……ハンバーグ!?」

「睦月テメェ……なにしやがるッ!!」


 二人とも睦月の事をにらみつけ何かを訴えようとするが上手く声を発することが出来ずそのまま床に倒れ痙攣し始めた。


「フフフ オジョウサン馬鹿デスネ ココハ ワタシノミセナノヨ」


 気がつくと周囲で食事を取っていた客達が睦月たちを包囲していた、ゆらゆらと上半身を左右に振りながらその包囲網を狭めてきた。


「コノ者達を トラエナサイ サスレバ マタ ハンバーグ タベサセテヤルヨ」


 店員の号令により20人の客その手にナイフとフォークを握り締め一斉に飛び掛ってきたが。


「反意せし罪業を侵せし神、汝断罪の鎖に繋がれ四肢は離別の道を辿るだろう…エヴァーランジェ フリーデ(無慈悲にして荘厳なる鎖)」


 何もない空間から無数の鎖が伸びその1本1本が客たちの身体に巻きつき空中に吊り上げる、その光景は一種の芸術的な様だ。


 四肢を繋がれた客たちは空中で大の字に引き伸ばされ金肉が軋む音と苦悶の声が上から降ってきた。


「これが私の能力、基本は他者の束縛だけど使い方によっては四肢を引きちぎったり、圧殺したりすることも出来る」

「ホワイ? ナゼ イミガワカリマセン!?」

「そりゃそーだよね、いきなりこんなの見せられて理解できる人間がこの世にどれほどいようか、むしろ理解できたら僕はそいつを人間として認めないけどね」


 先ほど鎖が宙から現れた時と同じように少年が現れ、店員はもはやパニック状態に陥っている。


「それにしても睦月ちゃんの使い方は見てて面白いね。この宙吊りにされた人間たちの構図なんて最高じゃないか。僕的にはこのまま四肢を引きちぎったらなお可なんだけどね。どう、引っ張ってみない?」

「別に私は彼等を殺したくて捕縛しているわけじゃないから……」

「相変わらず可愛いね。でもただでさえ殺傷力の無い能力なんだから、今の使い方で僕たちを倒せるなんて思わないほうが良いよ」

「……」


こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

今回は睦月の能力の披露です。その能力は鎖の顕現、さて次回の投稿は9月19日の月曜日となりますので、どうかよろしくお願いします^^

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