両魔王の対面
蛍が退院してから二日が過ぎた。
「どうして……こうなったんだ」
雪斗の言葉に蛍を除いた全員が内心で思っていた。本来は海老沢にある少しお高い店で退院祝いをする予定だったのだが、彼らは蒸し暑い山奥に点在する人が足を踏み入れることのない廃教会に集結していた。
「やぁ、全員揃ったようだね。外は暑いだろうし、早く入りなよ」
協会の扉を開き、中からゆったりとした純白のローブを纏い、両の眼を閉じた中世的な容姿を持つクルトが柔らかな笑みを浮かべて手招きする。
「本当に、ここで退院祝いすんの? マジで? 上手い飯とかちゃんとあるんだよ……な?」
「そんなの知りませんよ。寂れても教会ですし、小さなカップケーキくらいは出されるんじゃない?」
「カップケーキじゃ、腹いっぱいになんねーよ。なぁ、二次会とかやろうぜ、な?」
「シッ! 失礼でしょ」
「僕はカップケーキ好きだよ」
文句垂れる俊哉を睦月が黙らせる。
最奥にはステンドグラスから光が差し、床に聖母の模様を浮かび上がらせていた。
「んあ? 何もないじゃん」
「俊哉君、会場はここじゃないよ。あの扉の向こうさ」
「へぇ~教会のプライベートルームってやつ?」
「そうそう、俺達のプライベートルームにご招待だ」
そう言い、扉を押し開き、どうぞとジェスチャーをする。
中には長テーブルがあり、その上には豪華絢爛な料理の数々が並んでいた。
「すっ……すげぇ!」
「俊哉君、これでも海老沢の少しお高い料理の方がいいかい?」
「い、いやぁ……ははは、こりゃ参ったね」
気まずそうに頭をポリポリと掻く俊哉に、クルトは可笑しそうに笑う。このやり取りを見ていると、これから命と世界の命運を賭けた殺し合いをする間柄だとは思えなかった。
「クルト、他のメンバーは?」
「うん? 主役は何も心配しなくてもいいよ。さぁ、キミはこの席だよ」
上座に座らせ、蛍の右側の席には睦月達が、左側にはクルトが座る。
「もう少ししたら、俺の仲間も到着するからね。それまで、少し世間話でもしようか」
「うん、いいけど。どんな話し?」
「そうだね、まずは――おい、リリアン。お前は何をしている?」
和やかだった声質は一変し、ドスの利いた低い声と金の双眸が悠理を捉える――いや、正確には悠理の背後。彼女の奥深くをその金眼は覗き見ていた。
「あらあらぁ? 久しぶりの再会なのに、えらく辛辣じゃない?」
「お前はあの時、死んだと見せかけて生きながらえては、こんな快楽殺人に酔っていたんだ。少しの説教くらいはしたくなるってものだろう?」
悠理の身体から発せられる悠理の声。だだ、その雰囲気はいつもの悠理のモノではなかった。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回はクルトとリリアンというかつての仲間同士の会話をメインに進めていきます。