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真夏に微笑む蛍

 冷房が効いた個人病室で、睦月は深々と頭を下げ、その様子を黙って見守る俊哉達。


 いつも余裕と笑顔を向ける悠理は珍しく狼狽え、どうしていいのか分からないといった風で、時折視線を俊哉達に向けるが、誰も助け船を出そうとはしない。これは、睦月が悠理に向き合い、悠理もまた真剣に睦月と向き合わなければならないのだ。


「睦月ちゃん、えっと、まずは顔を上げようか」

「…………」


 睦月は金髪を揺らしながら顔を上げると、その眼は先程まで泣いていたのか真っ赤になり、頬にはうっすらと涙の跡が残っていた。


「睦月ちゃん、謝らなくちゃいけないのは私の方なんだよ。こんな大事な事をわが身可愛さで黙ってたんだから」


 軽蔑されたくなかった。怖がられたくなかった。やっと手に入れた友人と居場所を失いたくなかった。自分を優先にした結果がこれだ。こんな事になるのであれば、最初からすべてを打ち明けておくべきだったと過去の自分に後悔の念が心の奥底からあふれ出してくる。


「みんな、本当にごめんなさい」


 今度は悠理が頭を下げるや、睦月は慌てそれを制する。


「もう……もう謝らないで。悠理さんは充分に辛い思いをしてきたんだから!」

「睦月ちゃん……」

「蛍が目を覚ましたら、また一緒にみんなで世界を守ろう。もし、また悪魔が出てきても今度はみんなで戦おうよ。もう、一人で悩む必要なんてないんだから……辛かったり苦しかったら私達は友達なんだから分かち合おうよ。もちろん、辛い事ばかりじゃなくて楽しいこととかもさ」


 睦月は未だに戸惑いを持つ悠理に訴える。私達は仲間だと。困難はみんなで乗り越えるものだと。その懸命で真っ直ぐにぶつかってくる少女に悠理の頬は紅潮する。


「ありがとう。でも、最後にもう一度だけ謝る事を許して欲しいな。彼に……蛍君にもう一度謝りたい」

「うん! そうだね、そしたらみんなで快気祝いをしよ」

「じゃあ、僕はハンバーグが食べたい」

「そうだね、蛍はハンバーグが好きだも……んね?」


 自然な流れで会話に入って来た声に睦月は――ここにいる全員が眼を点にしたという表現が相応しい表情でその窓際に視線を集中させていた。


「うそ……」


 睦月は幻影か何かかと我が目を疑うが、少年はベッドから上体を起こし、腕に繋がれている点滴のチューブを邪魔そうに退かし、一同の顔をまじまじと見渡して小首を傾げた。


「……どうしたの?」


 いつも通りの抑揚のない声。


「うぉぉぉぉぉぉ!! よっしゃあ! ようやく目を覚ましやがったぜ! まったく、心配したんだぜ眠り王子」


 声だけで空まで駆け上がりそうな俊哉。


「寝坊助もいい加減にしろよな。ったく、俺は先生を呼んでくる」


 照れ隠しか、早々に背を向け病室を出て行く雪斗。


「はぁ、貴方って人はホント、マイペースですね」


 溜息を吐きつつも、肩を竦める怜央。


「蛍君、その……ごめんね、謝って許されない事をしちゃったのは分かってる。キミを斬り付ける時、確かに私の意識はあった。抗えなかった。これは自分に後ろめたさがあって、弱かったから――」

「悠理は悪くないよ。あれは悠理がやったんじゃない。僕には分かるよ。だから、一緒に戦おう」


 悠理の言葉を遮り蛍が首を振る。そして、その細い腕を差し出す。


「蛍君……うん、そうだね。ありがとう。一緒に戦おう!」


 その手を悠理が優しく両手で包み込む。


 互いに頷きあうと、悠理はそっとその場から逸れる。すると、その場には睦月がいた。


「睦月?」

「蛍……おかえり」

「うん、ただいま」


 真夏に日差しに照らされた少年は眩しそうに瞳を細め微笑んだ。


こんばんは、上月です(*'▽')


さて、今回から蛍も復帰しようやく全員が揃いました。

次回は快気祝いの話を書きますので、よろしくお願いします!

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