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狩人は闇夜に紛れて……

 退院後はこれといった不調もなく、健康な少年少女と同じくらいに動き回り、人生というものの有難みを噛みしめて毎日を楽しく過ごした。


 自分が病気だったことも忘れるくらい過去の出来事と化した今は、晴れて高校生となり、勉強や部活、バイトやイベントで青春を謳歌していた。


「じゃあね、悠理。また明日」

「うん、またね……」


 駅前で友人と別れた悠理はそのまま、改札に入らずに駅を出ては人通りの少ない住宅地へと足を運ぶ。


 普段は同性や異性を惹き付ける、屈託のない笑顔を振りまく悠理であったが、今の彼女の表情は――その瞳には虚ろの感情を宿し、一切の喜怒哀楽を感じさせない冷たい雰囲気を醸し出していた。


「今日は、何人?」


 誰もいないその場で、誰かと会話をしているかのように言葉を発する。


《そうねぇ、三人くらいかしら》

「くらいって……」

《ふふ、怒らないでよ。私はお嬢ちゃんの命の恩人よぉ? 私の気紛れ一つで……ね?》

「――ッ!」


 悠理は奥歯を噛みしめ、ようやく怒の感情を表面に現し天を仰ぎ見る。


 まるで、忌むべき相手がその場所にいるかのように、虚空を睨み据えて、つまらげに舌打ちをうつ。


「わかってる……別に貴女の楽しみを邪魔はしない。それが私が生きる条件だって分かってるから」

《いい子ねぇ、悠理。そうそう、貴女も気づけば快楽の海に沈んでいるわぁ!》


 リリアンは楽し気に、歌うように殺人衝動を語る。


 夕刻は夜闇に包み込まれる頃には、目的地である場所にたどり着いていた。


《ここなら、人目に付く事はないわ。ふふふ、楽しい楽しい狩りの時間ね》


 悠理が今いるこの場所は、海老沢から数駅となりにある都心部の楽園と呼ばれる広大な自然公園。


 公園の中央部には巨大な池があり、その池沿いには桜の木が植えられていて、春の散歩は疲れ切った都心の住人に安らぎを与えてくれる。


 今の季節は秋で、まだ桜の蕾すらも実ってはいない。


「待ち伏せるの?」

《ええ、そうねぇ。通り魔感覚で一人目を始末してみましょうか》

「……わかった。でも、せめて――」

《苦しませたくない? そんなの駄目よぉ、ちゃんと苦しませて、死のその瞬間まで痛みで生きていることを実感させてあげなきゃダ~メ》


 悠理の心はどんよりと鉛が纏わりついたかのように沈み、それと同時に感情を殺す。


 これは、自分の自己防衛の為。


 悠理は木陰に身を隠し、獲物が何も知らずに狩場に足を踏み入れるまでじっと息を殺し待つ。


《来たわね》


 リリアンの高揚している感情が、その弾みのある声から読み取れた。そして、ポツポツと等間隔に設置されている心許ない外灯に照らされ訪れたのは、自分と同い年くらいの少女だった。


 制服姿から学校帰りなのだろう。


 こんな人通りの少なく、明かりがほとんどない場所を使って帰宅するなんて、どれだけ不用心すぎやしないか、と忠告してあげたかったが、何も知らずに歩く少女にそんな善意は必要はない。


「……」

「――えっ!?」


 突如、木陰から躍り出てきた影に、少女は驚きに目を開き、その視線は影からその者が手に持っている大鎌に向く。


「ごめんね……」


 悠理はその月光を反射する妖艶な美しさを放つ大鎌を振り下ろした。 



こんばんは、上月です(*'▽')


高校生へと成長した悠理がリリアンとの契約を果たすべく、やりたくもない狩りをさせられていきます。


次回の投稿は2月8日予定です

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