少女が交わした死神との契約
少女には、友人と呼べる存在がいない。
視界に映るのは、白い部屋と、キャスター付きの竿からチューブが自身の腕と連結し、液体を一定の間隔で送り込んでいた。
窓に顔を向ければ、寒空の下で、枝先で休息する2羽の小鳥が仲睦まじげに身を寄り添わせている。
「お外に行きたいなぁ」
それは、少女がいかに切望しようと叶わぬ願い。
「どうして、私ばっかり……」
将来に対する悲観は、言葉にすれば惨めな思いに馳せられるので、己の胸の内に無理押し込む。だが、それも限界だった。
時折、お見舞いに来る家族からは諦観の視線と溜息が、見舞いの品の代わりだった。
「私、死んじゃったほうがいいのかな?」
未だ、十一歳の少女は死という概念を甘美な救済と捉え始めていた。
そんな、時だった。
ある時、不意に自分を呼ぶ声が聞こえたのは。
「あらあら、お嬢ちゃん。そんなに死が恋しいかしら?」
「だっ、だれ!?」
病室には自分以外誰もいない。
「まさか……幽霊?」
少女は怯え震える。布団を頭からかぶり、身を縮こませ、何も視界に映らないようギュッと強く瞼を閉じる。
「私が幽霊? ふふ、そんなモノよりもっと質が悪いわよぉ。もし、私が死神だって言ったらどうする?」
「――ッ!?」
布団が大きく跳ねた。
それは、少女が驚きに布団を殴り飛ばしてしまったからだ。
「可愛いわねぇ。じゃあ、貴女に選択させてあげるわ。今この瞬間に病気を治して、ほかの子達みたいにお外で遊ぶか、それとも……今この場で――死ぬかよ」
死という単語より、少女は前者の言葉に惹かれていた。
「私の病気、治るの?」
「ええ、簡単よぉ。どうする? 直ぐに決めてね~」
これが、悪魔の提示した選択であっても、幼い少女は何一つ疑う事も後先考えることなく、受け入れる。
「ふふふ、契約完了ね。じゃあ、悪いけどぉ、お姉さんの魂も入れさせてもらうわね~」
声はそれっきり、ピタリと止んだ。
「夢をみてたの?」
自分の身体に異変という変化が見受けられない。
そう――翌日の検査を受けるまでは……。
こんばんは、上月です(*'▽')
こちらも少し間が空いてしまって申し訳ありません。
明日は、『地平線に沈む夕日は、明日への希望』を投稿します。
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