銀聖の魔王が扱う最大術式
アルベールは教会のような城のテラスから眼前に広がる銀世界を見下ろしていた。
かつては、栄華に咲いたこの国も今や過去の残骸と化して寂しさと冷たさに彩られている。
「失った世界は……日常は返らない」
悲しい翡翠色の瞳は虚空を見やる。
「クリスティアに打ち込んだ楔であるこの世界を崩し、今こそ……ん?」
背後に気配を感じ、ゆっくりと銀の長髪を揺らし振り向き、その存在に両目を剥く。
「何故だ……何故、貴公がこの場に!?」
視線の先には、先程銀の法則に呑まれその魂をアルベールによって取り込まれたはずの少年が、今目の前に存在していた。
「クリスティアがここに運んでくれた」
それは一体どういう意味なのか問いたかったが、そんな野暮な言葉は飲み干す。
アルベールは魅せられていた。人間の奇跡を――可能性そのものを。
だから、演じてみたくなった。
「ほぅ、再び我の前に現れて何をする?」
「今度は負けない。僕だって負けっぱなしは好きじゃないから」
「ふむ、能力も覚醒していないその身で何が出来る? 貴公の魔眼は我に効果はないぞ」
自分の役は魔王だ。
ならば、死を踏破し再び魔王に立ちふさがるこの少年は――。
勇者にこそ相応しいだろう。
「行くよ、魔王アルベール」
「来るがよい! 我に熱き想いを思い出させてくれ!」
胸が高鳴る。
枯渇し、絶望に蝕まれていた少し前の自分ではない。
蛍は再び魔眼を使用する。
「その視線の先を辿れば……なに!?」
蛍が姿を消したと同時に銀の刺突剣を形成させ、振り向きざまに切っ先を突き付けるが……その場に蛍は存在していなかった。
「何処に……」
魔眼を使用した際に残る魔力の残滓を辿り、行きついた先は……。
「……頭上か」
全盛期に力を取り戻したアルベールは即座に新たな詠唱を述べ、銀色に発光する魔法陣を上面に向けて展開する。
上空から急降下する少年を迎撃すべく、魔法陣から無数の銀の矢を斉射する。
「眼は使わない。僕の能力は――」
そのまま地面にぶつかり、テラスが砕け崩壊しアルベールは土煙にまみれながら中庭に落下する。
「くく、滅茶苦茶だな」
ゆらりと銀の影が煙から姿を現した。
それに対峙する蛍もまた、擦り傷一つ無かった。
「我の銀は貴公の身体を穿ったはずだが?」
「これが、僕の能力だよ」
「ふむ、まだ色々と見せてくれるのだろう?」
「うん、望むなら」
互いに笑い合う。
「ならば――我の持ちうる最大の術式で貴公を今度こそ送り届けよう」
アルベールの魔力が一段と濃度を増した。
その純度と濃度は非常識達から感じたソレを遥かに上回り、世界そのものに干渉する力を感じ取る。
「我が望むは地平線を満たす銀の世界。我が忌むは不浄の色。常世に存在する全を無謬の摂理にて管理すれば我が魂は返り咲くだろう――銀聖の女神の微笑み」
こんばんは、上月です(*'▽')
次回でアルベールとの戦いは終わります。
そして、物語のゴールも見えてきていますので、是非ともこのままお付き合いください!
次回は1月24日の夜になります