銀の魔王が持つ領域外の魔力
蛍は銀の青年の質問にどう答えれば良いのだろうか、と小首を傾げつつ考えていると青年の翡翠色の瞳に殺意のようなモノが滲みだしてきた。
「なぜ、答えないのだ?」
「夢で……夢で出会った。暗い闇の中で一人泣きながら謝ってた」
「夢だと?」
「うん、でも僕が助けてあげるって約束したら笑ってくれて、その笑顔はとても温かかったよ」
蛍の信憑性も無い話しに青年は作り話だと断言せず、深く考える素振りを見せる。
「そうか……ならば、どうやってクリスティアを救うのだ? 彼女が今どういった状況なのかは知っているのだろう?」
もちろん知っていた。だが、どうすれば彼女を救い出すことが出来るのか、までは蛍も分からない。それは、今戦っている非常識達も正確には分からないだろう。
「分からない」
「む……分からない?」
「うん、僕に何が出来るのかも分からないし、戦うための力も覚醒していない。だから、僕が何をすべきかなのかは、まだ分からないんだ」
「…………」
呆れられただろうか。青年は瞳を伏せて軽い溜息を吐き出す。
「貴公がもし力というものに覚醒出来れば、クリスティアを救い出す方法が見つかると言うのだな?」
「うん、僕はそう思ってる」
「我もクリスティアを救い出す事が出来るかもしれない最後の秘策がある」
「秘策?」
「うむ、今一度我の全力を持って邪神を屠り、クリスティアの魂だけでも浄化させる」
蛍は今の目の前にいる枯れ木のように衰えた青年に、邪神が倒せるのだろうかという疑問を抱いてしまった。
「全力で?」
「うむ、全力でだ」
「…………」
「…………」
きっと、お互いに似た者同士なのだろう。自分も青年も口数が多い程ではないので、直ぐに会話が打ち切られてしまう。
「貴公の力はどうやって覚醒したのだ?」
「う~ん、戦ってる最中に?」
「なるほど、ならば……」
「そうだね。もしかすると僕も戦ってる最中に覚醒するかもしれない」
ならば、導き出される答えは簡単だった。
「僕の覚醒の手伝いをして欲しいんだけど……だめ?」
「クリスティアを救うのだろう?」
蛍はコクリと大きく頷く。
「ならば、我は全力で貴公を手助けしよう。だが……我に残された時間も僅かだ」
「うん」
「もし、貴公に見込みなしと判断した場合は、貴公の魂を我が吸収させてもらうが、それで構わぬか?」
「いいよ」
銀の青年は一切臆さずに即答した片目の少年を見据えては、嬉しさと期待が幾星霜の間も感じていなかった人間に対する熱い思いが込み上げてきた。
「最後に問わせてくれ、貴公の名を」
「僕は水無月 蛍。キミは?」
「我はアルベール・ハイラント・ルードリッヒ。第三魔王に座する者にして銀聖の影法師の神名を持つものだ」
見た目がやつれていようが、その身から発せられる魔力量や今まで気にしていなかった純度というものだろうか。それはとても穏やかに澄んでいて、蛍は非常識の中でクルトに近いと感じた。
「ゆくぞ、蛍」
こんばんは、上月です(*'▽')
前回投稿が出来ず大変申し訳ありませんでした。
前作である『守るべき日常、失われる世界』を読んでいただいた方なら、蛍と言葉を交わし対峙している人物が分かるかと思います。
さて、次回の投稿は1月15日の夜になりますので、よろしくお願いします!