俊哉の覚醒、呪われた剣を手に
あれから3人は頻繁に会っては、放課後や休日に残りの仲間を探しに街を探索していたのだが、これといった成果もなく手詰まり状態となっていた。
「流石にこの街全体を探すったって無理があるよなぁ、広すぎだろ捜索範囲がさぁ、だったら1箇所に絞って探してたほうがいいんじゃね?」
俊哉はポテトをかじりながら意気消沈していた。
雪斗と蛍の2人もお手上げ状態で、今後のやり方を変えていくべきだという話しになり昼食がてらに話し合うこととなった。
「俺はお前等とこの区域で出会ったんだ。だったらここら辺を重点的に探すべきだと思うぞ?」
雪斗はタバコを吹かしながら相変わらず面倒くさそうに答えるが、彼からすると協力的な状態なのだ。
雪斗か俊哉のどちらかが意見を出せば、その片方が反対意見を述べ、まったく話しに進展が見られず、蛍はひたすらに頼んだチキンバンズを静かに食べ続ける。
「なぁ、蛍もこの不良ちゃんに言ってやれよ。捜索範囲を一定にしちゃうとその場に来ない奴が仲間だったら一生出会えないってさ」
「はぁ? 何言ってんだ俊哉、テメェの意見からは歓楽街に行きたいって聞こえんだよ」
2人が言い争う中でもバンズを食べる手を止めず、黙々と口に運び飲み物と交互に胃袋に収めてゆくが、俊哉が蛍のバンズを持ってる手を掴み、雪斗がトレイを没収する。
「「いい加減に食うのやめて意見のベろよっ!!」」
まさに阿吽の呼吸といったところだろうか。合図を出し合ったわけでもなく全く同時に行動を起こし、まったく同じタイミングで同じセリフを述べた。
意外とこの2人は仲が良いのかなと思いながら見つめたが、彼等からしたら一瞬活動停止した彼の姿は食事の邪魔をされ少し怒っているという風に捉えてしまったのか眼を逸らされてしまった。
「僕は……雪斗の意見に賛成するよ、だからチキンバンズを食べさせてほしいんだけど」
いつもの抑揚のない声で2人を見つめる
「どうだ、蛍は俺の意見に賛成だとよ」
「わかったよ、俺がお前にチキンバンズを食べさせてやるから……な?」
「いや、手を放してくれるだけでいいよ」
案は雪斗の海老沢を中心を探索することとなり、各自冷めたバンズセットを胃袋に収めながら世間話しで少し楽しい時間を過ごした。
あと何日こうやって仲間たちと過ごすことができるのだろうか、意外と明日には全てが終焉を迎えているかもしれないという考えが脳裏を過るがその思考を振り払い、もう少しの間彼らとの昼食を楽しむことにし、2人の漫才を眺めながらバンズを口に運ぶ。
昼の街並みは騒々しく、大空の蒼さも蛍には虚ろに映る。太陽でさえ本来の存在意義を忘れてしまったかのような中身を感じさせない輝きを発しているような気がしてならない。
蛍はこの街につまらないという感情を抱き、その街に住む自分自身もつまらない人間だと認めてしまっていた。今まで生きてきた人生も、これから迎えるであろう未来も、目の前に起こる現在も中身の無い空虚な街という入れ物に収まっている限り色は射さないと思っていた。
若者たちの楽園の中で申し訳程度に自然がある公園のベンチに座りながら休憩を挟んでいた。
その公園に抱くは違和感……いや、公園だけに言えたことではなく現在この世界には違和感という理が支配していた。
音と人が消えたのだ。
話し声や街の喧騒、車やバイクの騒音、そして人間自身。その全てが急に何の前触れもなく消失する。この違和感に存在するのは蛍と雪斗と俊哉の3人だけ。
「なぁ、何か静かすぎないか?」
「……あぁ、不自然すぎるくらいに全く音がしねぇな」
違和感に気付いた俊哉と雪人は周囲に視線を這わせ、落ち着かせていた腰を上げる。
「ははは、どうだいビックリしただろう? 今君たちはこの世界を模写した別の世界に閉じ込めさせてもらったんだ。ふふ、どうしてそんなことをするかって? 答えは簡単だよ。君たちには自身の能力を理解してもらうためだよ。君たちに眠る能力がどんなものか見てみたくてね、ちょうどいい木偶を用意したから戦ってみてくれないかな、言っておくと本気でやらないと君たちはゲームの土俵に上がる前に死ぬかもしれないから」
蛍と瓜二つの存在が薄くなり、この世界から消失した。
そして、入れ替わるように目の前には何やら物騒な巨大バサミを持ったタキシード姿の怪人が立っていた。顔は仮面で隠されていて分からないが、きっと表情と呼べるものは無いのだろうと3人は直感した。
大きなハサミを開閉させ、歪な音を立てながら得物の状態を確認し終わると、1人ずつ品定めするかのようにゆったりと全身を品定めするかのように機械のように頷きつつ、何かの発作を起こしたかのように肩を震わせながらハサミを正眼の構えをとり雪斗めがけて特攻をしかけてきた。
動きは単純に1直線上に走ってくるのだが、思いのほかスピードが早く、一瞬の遅れで雪斗が反応し回避の姿勢をとりタイミングを伺う。
巨大な挟みが雪斗の首を刎ねる寸前に上体を屈めて脇をすり抜け回避をするが、木偶は特攻で生み出された速度を殺すことなく弧を描いては、また雪斗に向かって駆けてくる。
「ちッ……俺を狙ってきやがるか……ならお望み通り返り討ちにしてやるよッ!」
その首筋に迫る両の刃を蹴り上げ、右ストレートが仮面を穿つ。
一瞬だが木偶の動きが怯み、普段から喧嘩慣れしている雪斗がこの絶好の好奇を逃すはずもなく、回し蹴りを首元に叩き込むと、確実に何かが折れるような音がしそのまま木偶は地面に崩れ落ちる。
「何が本気でやらないと死ぬだ……ふざけやがって」
地面に倒れ振る怪人に言葉を吐き捨てる。
「お……お疲れ雪斗、ホントにお前喧嘩強いんだな」
一連の戦いを離れて見ていることしか出来なかった俊哉としては、もはや自分が踏み込める境地の戦いではなく、そして凶器を振りかざす化物すら凌駕する彼の強さは海老沢市の高校に広まる噂以上の物だった。
「雪斗……そいつ、まだ生きてるよ」
「あぁ? 俺は今こいつの首の骨を折ったんだぞ、生きてる筈はねぇだろうが」
なんとなく思った、コイツは人間の常識に当てはめてはいけないと。彼は人間が生きる世間の常識という箱庭のさらに外側に住む化物が残した産物だ。そう易々と倒せるはずがないと。
「おいおい……骨折るってそこまでしたのかよ」
「そこまで、ではなくて、その程度という方が正しいよ」
蛍と似た声が空間に木霊する。
現に倒れた怪人の指は何かを探すかのように地面を掻きむしっていた。そして、ゆっくりと立ち上がり垂れ下がった首を手で持ち上げ、大きな杭状のものを頭頂部から垂直にさし折れた骨を補った。
仮面はボロボロと崩れ落ち現れた顔は皮膚のない……そう、人体模型のような顔をしていた。
「うわっ、キモッ!!」
俊哉が思わず引きつった声で叫ぶと木偶は俊哉の方を向き、ハサミを開閉している。どうやら俊哉を次の標的に選んだようだ。
蛍はあの怪人にもプライドがあるのかななんて場違いな事を俊哉の後方で考えていると、木偶は人の声ではない黒板を爪で引掻いたかのような耳障りな奇声をあげながら俊哉に向かい駆けてきた。
その速さは先程の雪斗の時に見せた比ではない。それに俊哉は構えることなくただ立ち尽くしていた。
「こんなところで死ぬのかい? 君が死ぬと代わりの駒を用意しなくちゃいけないんだけどな」
空間に響いたそれは俊哉に向けられた失望の声。
「ふざけんな! 俺はこんな所で死ねるかよッ!!」
瞬間左手の模様が紅く輝き出す。
「なんだ……これ?」
左手に輝く模様は熱を持ち、鈍い痛みと全身の疲労感が初期症状として現れた。
周囲の光景がゆっくりと……いや停止している。
脳に直接響く男の声で紡がれる誓約の祝詞。
知らずと口が動きその祝詞を呟いていた。
「我は亡国の英雄にして反逆の騎士。我が剣は義を軽んじる不敬の刃。今此処に断罪と反逆を……顕現せよ:アグリンスト フォーバエイゲン(反逆せし騎士の剣)」
俊哉を中心として左手に浮かぶものと同じ模様が地面に描かれ、それは収束し1本の剣と化す。かつて、何処かの世界の神と呼ばれる種族にあり、騎士称号を得ていた忠義の騎士が戦場で使っていたとされる剣。だが最期は反逆し使える主と仲間を1人残らず切り捨てたとされる呪いを孕む魔剣。
剣に纏う紅き気は人々の怨念とされ、命を吸わせれば強度と切れ味を増し、成長の停滞を知らぬ剣が今俊哉の手に握られていた。
「なんだ、これ?」
先ほどと同じ言葉を繰り返し、取り敢えず今はこれに賭けるしかないと剣を相手と同じく正眼に構え、いつの間にか停滞していた時間は動き出し、迫り来る怪人を正面から迎え撃つ。
「くらえぇぇぇぇぇぇ! 俺の必殺技、紅魔開闢閃」
触れたハサミと剣は鍔迫り合いすることなく、まるで紙を切るかのようにハサミを断ち、怪人を縦一閃に切断した。
怪人は怨嗟の炎に身を包み悶えながらも地獄の地へと旅立っていっく。
「おい、俊哉その剣はいったいなんなんだよ!? 瞬きした瞬間にテメェがソレを振り回してたように見えたんだけど、どういうことか説明しろ!」
雪斗は俊哉に掴みかかり肩を思いっきり揺さぶっていて、俊哉はガクガクと首を前後に振られ、興奮する雪斗をなだめようと必死にジェースチャーをしていたが興奮しきった雪斗が収まるまで少々の時間を有した。
俊哉はあの一瞬に起きた出来事を覚えている範囲で詳しく語りだしその間彼と雪斗は黙って話しを聞いていた。
「俊哉その声ってどんな声だったの?」
珍しく自分から疑問を述べる蛍に、う〜んと頭をひねらせ思い出そうとする。
「たしか中年だけど威厳がありそうな……他者を従わせるような声だったかな? でも何かさぁ、凄く辛くて苦しそうな声だったってのは覚えているんだよね」
「やぁ、無事に生き残れたみたいだね、おめでとう。ご褒美といってはなんだけど、何か聞きたそうな顔をしているから、特別に俊哉君だけ質問の権限を与えようかな。3つだけ何でも答えてあげるから好きな質問をしなよ」
「じゃあ質問させてもらうけどさぁ、この力は一体なんなんだ?」
まずは妥当な質問に雪人と蛍も聞き漏らさないよう注意を耳に注ぐ。
「それは、キミが生まれ持った力……としか言いようがないかなぁ、さて次の質問は?」
「はぁ!? 今の答えになってないし、つか今の答えでカウントされんのかよ! まぁ、いいや。その力ってやつを詳しく教えてくれよ」
「うん、そう来ると思っていたよ。キミたちの能力はその個人だけが扱う事の出来るものなんだ。この世界の能力の発言は前世に関係してるいみたいなんだよね。詳しくは知らないけど君も聞こえただろ、前世のキミが紡ぐ祝詞の声を、さ〜て最後の質問はなにがいいかな?」
「前世? う~ん、まぁ、その事は後で考えるとして、えーと最後の質問は人間全員がその能力を使うことが出来るのか?」
「その答えには首を横に振るよ。能力は全員が使えるわけではないんだ。前世の力が協力で上位に位置している者だけらしいよ。だから数もそんなに多くないからこの世界で能力を使役できる人間を探すのは苦労するんだよね。まぁ、他の世界では全員僕達に殺されちゃってるけど……さて、質問タイムは終わりだね。残りの仲間を集めて早く能力を覚醒させてあげてね。その手伝いくらいならするからさ」
と言い残し世界に溶けるようにして消えた。
「おい、俊哉つまり俺やコイツもお前みたいな能力が使えるってことだよな? なら早く覚醒する為に行動を起こすぞ」
「でも、アイツは覚醒のためなら手伝うって言ってたよ」
「あぁ、そういやそんな事言ってたな。だったら話は早ぇな、早速アイツに手伝わせて覚醒して、ちゃっちゃとこんなバカげたゲームを終わりにしてやろうぜ」
雪斗の声に反応するように空間が歪み、帰っていったはずの蛍と瓜二つの少年が現れる。
「そうそう、言い忘れていたんだけど。1日に覚醒できるのは1人までだから、それ以上やると世界の均衡が崩れてゲームをする前に地獄絵図と化しちゃうんだよ。それだけ、君たちの能力は強大ってことだから楽しみにしててよ」
その一言だけ置き土産に、今度こそ消えていった。
「1日1人か……面倒だけどやっていくしかねぇな」
元の世界に戻った3人は今日はもうやる事がないと合意して帰ることにした。
駅に向かい3人は歩いていると目の前からギターケースを担いだ黒を基調としたロック衣装に身を包んだ少女と蛍がぶつかった。
「痛った……ごめん、私ちゃんと前見てなかった怪我とかはして……っ!」
ロック衣装の少女は彼を見るなり表情を変え、訝しむような眼差しを向けてくる。
「僕になにか?」
彼はいつものように短く返すが、少女はもう1度謝罪をして足早に人込みの中に消えていく。その姿を見送る3人はしばらくの間その場で立ち尽くしていた。
「なぁ、本当にあの娘の事しらないのか? だってありゃ絶対に見知っているって感じじゃなかったか、なぁ雪斗」
「そうだな、お前の事思いっきりガン見してたしな。なんかお前やらかしたんじゃねーのかよ?」
その後、2人はその事についてばっかり問いを投げかけてくるが、見覚えもないので分からないとしか返答のしようがなかった。
だが、分からないと返答いするたびに彼らはニヤニヤとニヤつきながら彼に擦り寄り、根も葉もない事を言ってくる。
「……わからない」
改札を抜け3人は別々のホームの為ここで別れを告げ、街中に劣らぬ人混みの数の1人として帰路に着く。
蛍は2人と分かれホームで電車を待っていると携帯が震え開いてみると見知らぬアドレスからで
(今日の22時に小森ヶ丘公園内にある美術館前に1人で来い)
という簡潔な内容だった。
どう見ても怪しいそのメールだが無視をするとなんだか後悔しそうな気がして、先程からその文書が頭の中をぐるぐると回帰し続ける。
こんばんは上月です(*'ω'*)ノ
やっと4話目に突入です。これからもっと書きたい話しとかがあるので個人的にも楽しく書かせてもらっています!
次回は9月15日の夜に投稿しますので、ぜひともよろしくお願いします^^