睦月の歌
「らしくないな……」
カラオケで俊哉が熱唱してる中にポツリと呟くが、スピーカーから漏れる歌声に搔き消され、自分でも珍しいなと思いつつ、悩みの種でもある悠理の横顔をジッと見つめる。
「うん? 蛍君、お姉さんの顔になにかついてるのかなぁ?」
蛍の視線にきづいた悠理が顔を寄せて耳元で囁く。
「何でもないよ」
「本当かなぁ、まさかお姉さんに見惚れちゃったとか?」
「そんなんじゃないから大丈夫だよ」
蛍は悪気はなく答えたつもりであったが、悠理はちょっとショックを受けたように微笑む。なぜか悠理に悪い事をしてしまったという罪悪感が芽生えるが、深く追及されずに済み安堵した。
「ゴホン、俺の歌どうだった! ねぇねぇ、怜央ちゃんどうだった?」
歌い終わった俊哉が感想をしつこく怜央に求め、うざったらしそうな表情で「普通よ普通」とこれまた珍しく甘い採点にこの場にいる全員が意外そうに眼を点にさせた。
「な、なによ。私そんなに変なこと言ったかしら?」
本人の反応から無意識だったのだろう。
「いや、なんつーか。お前にしちゃ珍しく甘い評価だなって……な?」
雪斗はたぶん同じ理由で呆けていたであろう仲間に言葉を投げる。
「うん、ちょっと意外だったかも」
「だよね~」
「うん」
「べっ、別に普通だと本当に思っただけよ! 貴方達は私をなんだと思っているのよ、まったく……それより次は睦月の番よ。早く歌いなさいよ」
俊哉の使っていたマイクを睦月に手渡す。
「そういや、睦月はロックバンドやってんだったよな。自分の歌は入ってないのか?」
「えっ……いや、それは――」
「入ってたよ」
慌てふためく睦月の言葉を遮り、蛍が辞書のように分厚い楽曲本を開き机に置く。
「ふふふ、せっかくだし睦月ちゃんの生ライブを聞いてみたいなぁ」
「えぇ!? どうしよう……」
「いいじゃん、いいじゃん! 歌ってくれよ~」
「僕も睦月の歌聞きたい」
蛍にまで希望され睦月は意を決し、数ある歌から一曲を選びテレビ画面にリモコンで番号を入力していき、激しめのイントロが流れ始める。
「スゥ……ハァ……」
睦月は瞳を伏せゆっくりと深呼吸をし心を落ち着かせる。仲間内のカラオケであろうと手を抜かず歌い出す。
最初は場を盛り上げようとしていた俊哉も次第に黙り、その歌声に耳を傾け、懸命に歌うその姿に目を奪われていた。本気で打ち込む者だけが魅せる事の出来るオーラに一同は息をすることを忘れるほどに睦月にくぎ付けになっていた。
僅か三分程度の長さではあったが、その短い時間の中で睦月は己の全てを乗せて吐き出した。
「すごい……じゃない」
マイクを置き水で喉を潤す睦月に怜央は感嘆の声をもらした。
「スゲェ! 睦月ちゃん、マジスゲェよ。俺感動しちまったぜ、今度CD買うからもう一回バンド名教えてくれよ」
俊哉はファンになっていた。睦月は皆から掛けられる言葉に頬を紅潮させつつも、蛍にチラリと視線を向ける。
「うん、睦月カッコよかったよ。僕もCDが欲しくなったからバンド名教えて」
蛍からも好評だったことで睦月の胸の内は熱くなり、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて見せた。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
昨日投稿できずに申し訳ありませんでした。
次回は悠理の秘密に迫りますので、お楽しみに!
次の投稿は12月27日になりますので、よろしくお願いします