消えたメール
空には気持ちが良い程の大きな入道雲がゆっくりと泳ぎ、蛍はその流れゆく雲を目で追いながらファミレスで一人、優雅にドリンクバーを満喫していた。
十一時に海老沢駅で待ち合わせなのだが、家にいてもやる事が無いので早めに現地に来てみたものの、真夏の暑さと暇を持て余し近くのファミレスに避難していた。
「今日は何して遊ぶんだろう」
蛍はぼんやりと時間を過ごし時計に視線を移したが、まだ待ち合わせの時間まで一時間もあり、昨日の出来事を思い返すと、睦月と手をつないだ時の柔らかな感触が鮮明に呼び起こされる。
思春期の少年には興奮と感動の瞬間であるが、蛍にとってはそう言ったモノを度外視して新鮮な……失いたくないという気持ちを抱いた。
「睦月はきっと良いお母さんになるんだろうな」
何となくそんな気がした。見た目は金髪にロック衣装という近寄りがたい印象を与えるが、共に過ごして分かる彼女の優しさを蛍は感じ取っていた。
折り畳み式の携帯電話を取り出し、メールフォルダを開き過去のやり取りを見て暇を潰そうとボタンを操作する。睦月と出会ったのも奇怪なメールだったことを思い出し、即座に日付から検索してみるが何処にもそのメールが見当たらない。
「消してないんだけどな……」
探しても探しても見つからず、疑問は残るが無いものを探しても仕方がないので渋々諦める。
「俊哉は宿題の事ばっかりだ」
ほぼ毎日放課後に宿題を見せてくれとの内容が送られていて、自分が言えたことではないが彼の将来が心配になってしまい、小さな溜息がこぼれる。再び時計に目を向けると時刻は十時半を過ぎていて、残り三十分を切っていたので、グラスに入っているジュースを飲み干し、会計伝票を手にレジへ向かう。
駅に着くと人の群れに紛れて、俊哉を除くメンバー全員が揃っていた。蛍が改札からではなく街の方からやってきた事にみな多少の驚きの色を浮かべていた。
「へぇ、珍しいな。お前が一番乗りとはな」
「貴方も本当によく分からない人ですね。いつも時間ピッタリ来るかと思えば……って、時間ピッタリじゃない!」
初めに声をかけてきた雪斗と怜央に挨拶を交わす。
「おはよう、蛍。昨日は大丈夫だった?」
柔らかな笑顔で昨日の出来事を心配してくれる睦月に「うん、僕は大丈夫だったけど、睦月は?」と聞き返す。
「私も大丈夫。昨日はそのままぐっすり眠ってたみたい」
「疲れたもんね」
二人だけの会話に悠理が興味あり気といった風に口を開く。
「昨日、なにがあったのかなぁ? 是非ともお姉さんに教えて欲しいなぁ~」
いつも通りのニコやかな悠理の姿を見て、蛍は昨日のクルトの言葉を思い出す。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
今回は特に進展はありませんでしたが、次回は何かが起こる予定です。
次の投稿日は12月24日の夜になりますので、是非ともよろしくお願いします(*^_^*)